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アルキメデスの大戦のumisodachiのレビュー・感想・評価

アルキメデスの大戦(2019年製作の映画)
3.7
『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』 と同じ人が携わったとは思えないほど面白かった。漫画原作。

昭和8年。日本帝国海軍上層部では、戦艦を作るか空母を作るかで意見が対立していた。空母派の山本五十六は、戦艦派の出した見積もりの信憑性を疑い、天才数学者・櫂直を海軍に招き入れ検証させることにするが……。

戦艦大和が海に沈むオープニングの大迫力から始まり、緩急がついた全く飽きさせない演出で非常に楽しめた。正義感に溢れる天才を演じる菅田将暉、徐々に櫂に魅せられていく柄本佑のコンビネーションが、若々しくも軽くなりすぎず◎。数式はサラッと流しているのだが、いい加減になることなく適度に説明させていて分かりやすい。終盤の山本五十六と長野修身の過去対話のシーンだけ蛇足かなと思ったが、あとは無駄だと感じるシーンもなく、上映時間の長さを感じさせなかった。

そして何よりも、戦艦大和の画が良い。こういう映画を作る上ではそれこそが一番重要だと思うし、スクリーンの大和に魅せられてしまう自分を意識することが、この映画の狙いになっている。戦前の話なのだが、今の日本に思いを馳せざるを得ないわけで、ちゃんと現代的な映画に仕上げているところが上手いと思った。

そしてなによりも、田中泯。戦艦の設計者である平山忠道を演じる田中泯の存在感が桁違いにデカい。そもそも、どうしても今風になってしまうキャストの見た目(今の人だから仕方ないのだが)の中で、ひとりだけ戦争画から抜け出てきたような佇いなのだ。

やはり、ダンサーは強い。セリフではなく身体全体で表現するからだ。ただそこに座っているだけで、表現は成立する。もちろん他のキャストもそういう意識で座っているのだろうが、強度が違う。國村隼と橋爪功という日本屈指の名優をも一瞬で吹き飛ばすほどの圧。一言口を開くだけで、空気をガラっと変えてしまう強烈なオーラ。上層部の会議のシーンはキャストの力量があまりにもハッキリしすぎていて、舘ひろしがちょっと可哀想だった。

特に終盤は田中泯無双と化すので、終演後は脳内に『主演:田中泯』という文字が浮かんできてしまったほど。完全に食っていたし、この映画を支配していた。あんなことができるなんて、表現者ってすごいなあ。

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