このレビューはネタバレを含みます
美しいものがあったら測らずにはいられない，変人天才数学者・櫂直が，ひょんなことから巨大戦艦建造計画の不正を暴くために奮闘するお話．
VFXだからこそ再現できる，圧倒的なスケールの戦艦大和が無残にも崩れていく沈没シーンはさすがの山崎貴監督だった．柄本佑演じる田中少尉との掛け合いも面白くて良いコンビだった．
確かに数学の天才ではあるが，問題に対し解決方法を導き出すプロセスと執念が彼の傑出したところだと思った（積算でなくて推定する方法は割と早い段階で思いつきそうだけど...）
しかし意外なことにストーリーは一筋縄ではいかない展開になっている．
航空空母 vs 巨大戦艦という単なる対立構造から
山本五十六 vs 平山忠道という異なる主義を持つもの同士へシフトする瞬間はあざやかだった．
日本人の依り代としての「大和」をつくるー
戦争のその先を見据えていた田中泯演じる造船中将の真意に，櫂の心が揺さぶられるあのシーンは素晴らしかった．
菅田将暉演じる櫂直は，最初「帝一の國」の帝一の雰囲気にどことなく似ている気がした．
しかし後半の，数学で戦争を止めたいという信念と，一度踏み入れてしまった軍人として正義の間で葛藤する，えも言われぬ表情はこの人にしかできないだろうと思った．
あらゆるリスクに備えなければいけない技術者としての使命．破壊されるとわかっていても，美しいものをその手で実際に創り出したいという純粋な職人のロマンも描かれていた．
そういった点では，宮崎駿監督作品の「風立ちぬ」の堀越二郎と重なる部分を感じた．
どこまで史実と重なっているか勉強不足でわからないし，史実を知ったところで当人達の思惑は想像するところでしかない．戦争を賛美するわけではないが，きっと各々の信念に則って行動していたのは確かだろう．
しかし机上で繰り広げられる，同調圧力・忖度・私利私欲が入り混じった議論の中での結論で，国の運命が左右されるのは恐ろしいことだとも思った．
