銀色のファクシミリ

アルキメデスの大戦の銀色のファクシミリのレビュー・感想・評価

アルキメデスの大戦(2019年製作の映画)
4.3
『 #アルキメデスの大戦』(2019/日)
劇場にて。原作既読。連載中の原作コミックを再構成した脚本とキャスト、ゆるぎない歴史的事実が通底している中でも、要所で盛り上げる構成。山崎貴監督&白組製作のVFX。褒めるところばかりの2019年下半期ダークホース、かなりの秀作でした。

あらすじ。新たな戦争の空気に日本が包まれつつある昭和8年。海軍の新造艦艇選定会議には、巨大戦艦案と航空母艦案が提出されていた。航空戦力の充実を図る山本五十六少将(舘ひろし)は巨大戦艦案に反対であったが理解者は少なく、大勢は嶋田繁太郎少将(橋爪功)が主導する巨大戦艦案に傾いていた。

山本はある情報に着目する。会議に提出された建造予算では巨大戦艦は航空母艦より安く造れるとされたのだ。大いに不自然な数字に劣勢の突破口を見た山本は、本当の建造費を知るため奇縁で機知となっていたある人物を海軍に招聘しようと動き出す。
ある人物とは、数学者・櫂直(菅田将暉)。とある事情で東京帝国大学数学科を離れた、百年に一人と謳われた天才だった。説得が奏功し、櫂を海軍主計少佐に着任させることが出来た山本は、改めて巨大戦艦の本当の建造費の調査と見積りを、櫂に命じる。不正を暴き問責すれば、巨大戦艦案を葬り去れると、山本は踏んでいた。

そして櫂は、巨大戦艦の存在が、戦争へ向かう機運を高めることを危惧し、留学を止めてまで海軍に入ったのだった。軍機の壁と嶋田派の妨害が予想される中で、副官の田中正二郎少尉(柄本佑)と二人だけで取り組む困難な状況。さらに二案から決を採る次の会議までに残された時間は、たった二週間だけだった。

感想。「亡国の巨大戦艦建造を阻止できるのか?」とぶち上げてはいるものの、この巨大戦艦とは大和のことであり、日本は戦争に突入し、大和は昭和20年の天一号作戦、「沖縄海上特攻」で米軍と会戦し沈没している。そして映画でも冒頭の大和の戦闘シーンでこれがゆるぎない歴史的事実して示されます。
原作コミックも途上で、映画はどうするのかと思っていたのですが、冒頭での戦闘&沈没シーンには驚きました。ですから映画全編の牽引力は「計画を阻止できるのか?」ではなく「どうしてこうなってしまったのか?」にあり、それを描く130分になっています。

あらすじで書いた導入部から作品前半は、櫂少佐と田中少尉の変則バディムービー&二週間タイムリミットのプロジェクトX風味で退屈させず、後半は新造艦艇決定会議という舞台での緊張感ある攻防で引っ張る。そして大和建造に至る経緯が明かされる終盤。130分でまとめ上げた見事な脚本と構成。

キャストでまず記さねばならないのが、櫂直の主演・菅田将暉。原作の櫂少佐はもっと鉄面皮で怜悧な人物なのですが、実写では書生然とした明るめのキャラに。戦争と権力闘争を描く重い物語の主人公として緩和され、ラストショットまで観るとキャラの改変も菅田将暉の起用も大成功だなと思えました。

加えて、原作から整理され主たる女性陣を集約した、尾崎鏡子役の浜辺美波。櫂のプライベートエピソード側を担いつつ、重めの物語の緩和として改変もされている鏡子のキャラクターに、浜辺美波の存在感が奏効しています。

そしてなにより櫂少佐の主敵・平山忠道造船中将役の、田中泯さん。泰然とした技術官僚(テクノクラート)感。この人なりの芯が通った自信が持たせるオーラ。一番原作に近い存在感だったと思います。
他にもVFXで戦艦長門と三段式時代の空母赤城が見られたりとオススメが多い映画です。感想オシマイ。

追記。原作に一番近い人物は大里社長でした。謹んで訂正させていただきます。原作だと鶴辺社長というお名前。公式サイトによると原作の三田先生も出演を喜ばれていたそうなので、全員がwin-winのやさしい世界に乾杯。

もうちょっとだけ追記。冒頭の海戦での米軍PBY カタリナ飛行艇の登場には驚きました。撃墜されたパイロットの救助のために飛行艇が戦闘中でも果敢に着水するのですよね。友軍を見捨てない米軍の姿を見た、特攻部隊の大和対空銃座の面々が押し黙ってしまう。史実かは不明ですが良い対比のシーンでした。
(2019年7月28日感想)

#2019年下半期映画ベスト・ベスト助演俳優
#2019年映画部門別賞
・田中泯/『アルキメデスの大戦』
最大の敵・平山造船中将役。頑迷な軍首脳部の中で生きる技術官僚らしさと、この人なりの達観が主人公を圧倒していく。こういう役は田中泯さんの出番。あの菅田将暉を食うだけの説得力と存在感がないと。
元々、国際的にも評価の高い舞踊家として知られる方ですけど、映画俳優としては、どの作品でも出番は主人公よりも少ないのに「超えられない、超え難い年長者」として圧倒的な存在感。『アルキメデスの大戦』はこの方だからこそ、上手くいった感ありますね。

#2019年下半期映画ベスト10
・『#アルキメデスの大戦』
山崎貴監督の過去最高作。CGの迫力もさることながら、史実を覆さないで盛り上げ、かつビタースイートな脚本が素晴らしい。
(2019年12月31日感想)