茶一郎

マンディ 地獄のロード・ウォリアーの茶一郎のレビュー・感想・評価

4.4
 おはマンディ!こいつはまた途轍もないものがきましたね……『マンディ』、今すぐ『レギオン』、『ドクター・ストレンジ』、『アメリカン・ゴッズ』と並んでTSUTAYAの「見る麻薬」のコーナーの新作棚(そんなコーナーなどない)に置いて欲しい一本。

 冒頭、ニコラス・ケイジ扮する主人公レッドの愛する妻マンディがどうやら薬物の煙を吸っている優しいトリップ描写から、観客の意識はマンディの薬物酩酊と徐々に共鳴。続いて、カルト集団に誘拐、薬物を注入されたマンディが教祖から一方的に聞かされる「飛ぶ」演説を観客も同時に聞かされ、終いには復讐鬼と化したレッドの最凶のブッ「飛び」を(これまた)観客も体感させられる。
 何とも確信犯的に随所で「飛び」共鳴をさせられる『マンディ』はトリップムービーの系譜にある作品ですが、本作が優れているのはその酩酊を作り手パノス・コスマトス監督がコントロールしている点にあるように思います。ノンストップなトリップムービーというより、お話の軸が安定し、しっかりと役者陣の顔・演技を見せる映画です。物語を分かりやす〜く3幕構成にしているあたりも非常に作り手たちの理性的な姿勢を感じさせられました。

 その酔い方ならぬ「飛び方」を心得ていた作り手たちは、極彩色の映像美、独自の映像「パノフレア」で新鮮な映像を見せてくれたパノス・コスマトス監督、そして『ブレードランナー2049』のスコアを担当しなかったのが惜しまれるほどヴァンゲリス調の見事な音楽を担当したヨハン・ヨハンソン(ご冥福をお祈りします)、何より洗面台のシーンで一生、記憶に残る演技を見せたニコラス・ケイジです。
 本作『マンディ』は、パノス・コスマトス監督のお父様(ジョルジュ・パン・コスマトス監督)
がお亡くなりになった後の無力感から生まれた作品と監督が語っていますが、本作の撮影直前に離婚を経験したニコラス・ケイジにとっても、喪失感に苦しむレッドというキャラクターは個人的なものだったはず。二つの個人的な感情が見事に噛み合った結果が、あの演技としてスクリーンに現れたのではないかと思う次第です。

 理性的にコントロールされたトリップ体験『マンディ』、作り手たちの理性的な姿勢以上に上映時間121分を楽しませてくれるのは非常にB級・娯楽的な要素が多いというのも要因にあるように思います。
 監督は子供時代、B級映画の見せ場を15分にまとめた映像が好きでたまらなかったようですが、本作の見せ場・魅せ要素のオンパレードはその映像集にも近いかもしれません。レッドとマンディが住む「クリスタル・レイク」は『13日の金曜日』におけるジェイソンの聖地である事から始まり、この『マンディ』は芸術的なルックの反面、B級的要素から全く逃げません。後半にしたがってエスカレートする見せ場の数々に、心踊らされっぱなしです。

 お酒はほどほどに嗜むのが一番と言いますが、本作『マンディ』はその「ほどほど」のギリギリ手前で踏みとどまれる良い酔い方ができる一本でした。
茶一郎

茶一郎