りっく

岬の兄妹のりっくのレビュー・感想・評価

岬の兄妹(2018年製作の映画)
4.3
本作はまず兄妹を足元から映し出す。片足を引きずりながら歩みを進める兄と、段ボールで日光を遮断した室内に鎖で繋がれる妹。あるいは地べたに這いつくばって土下座し、砂浜で元雇用者にもみ合いになる。この最底辺からの視点が全編を通して貫かれることになる。

そんな世界で、この兄妹はどのように生き、食べ、金を稼いでいくのか。そこには例えば知的障害を抱える妹を売春させる倫理観や道徳観や善悪の基準など入り込む余地はない。そこで躊躇い批判できるのは、ある程度の生活や安定が保証されている立場の人間だけである。

そこには生と性への執着が刻印され、その迫力は本作の強度を極限まで高める。彼らの行動原理はいたってシンプルであり、そこには恥も外聞も取っ払った、まぎれもない人間が曝け出されている。それはどこか70年代のロマンポルノやATG、神代辰巳や大島渚作品のような匂いやエネルギーを漂わせる。

一方で、兄妹が並ぶのを引きで映し出す画はどこか神々しささえ感じられるほど美しい。特に雲の切れ目から差し込む光は、岬に立ち荒ぶふたりを照らし出す。天上から全てを見ている太陽と、全てを包み込むような広大な海。世俗的な人間と人知を超えた自然の寄り添いが本作に深みを与える。
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