バルバワ

岬の兄妹のバルバワのレビュー・感想・評価

岬の兄妹(2018年製作の映画)
4.6
映画禁止法略して禁映法を発令した嫁の管理下に於いて、鉄の掟四ヶ条に遵守しこそこそと映画館に足を運ぶ…それすなわち隠れシネシタンである!

隠れシネシタン鉄の掟 四ヶ条
其の一、鑑賞日は有給を使うべし
其の二、鑑賞映画は午前中に一本にすべし
其の三、鑑賞後は適当に理由をつけて速やかに帰って育児家事に励むべし
其の四、急に早帰りできた場合、時間に応じ午後に映画を鑑賞してもよし
其の五、ファーストデーには出来たら映画を鑑賞すべし←NEW!

これは隠れシネシタン鉄の掟五ヶ条を遵守し、家族ファーストしながらもファーストデーには映画をお得に鑑賞する…そんな志が低いシネシタンの備忘録である!


いやぁ…個人的に今年ベスト級!

あらすじは足の不自由な良夫と自閉症の妹、真理子はギリギリながらも二人で暮らしていた。しかし良夫の失業をきっかけに二人の生活は極貧状態に陥り、とうとう真理子に売春させて生計を立てようとする。…的な感じです。

本当に極貧でした。今まで私が観た映画でトップクラスの極貧状態で主人公が生活を送っていました。『万引き家族』より貧しいです。ティッシュを兄妹でハムハム食べたり、ゴミを漁ってホームレスとピザを取り合ったりします。
今作が凄いのは障がい、売春、貧困というかなり重いテーマを扱ってるのに笑えるということです。実際劇場でも笑い声がそこかしこから聞こえてました。


個人的な笑撃を受けたシーンは糞ガキどもの撃退からの握手ですね…この撃退法が誰でもできるけど誰もしない方法でして度肝を抜かされました。

度肝を抜かされたといえば真理子を抱いていく男が次々と代わって行くワンカットのセックスシーンですね。なんだか見てはいけないような物を見せつけられている気がして気まずくなりました。
何よりラストシークエンスですね、また地獄が繰り返されてしまうと私は感じました。

役者さんは軒並み素晴らしく、親友の警官、肇ちゃん夫婦の善人ぶりは今作随一の癒しでした。
兄、良夫は顔がズルい!個人的な"良夫の顔ベスト3"は
①夢の中のバキバキの笑顔
②親友の警官、肇ちゃんに詰め寄られた時の顔
③童貞学生への謎のドヤ顔
です!
顔だけでなく親友の肇ちゃんへの金のせびり方、客が学生と知った瞬間の見下し方、マックの食い方が…もうすべてが最低最高!
しかし、彼も兄として真理子に対しての複雑な感情を抱いて葛藤しているので単にコメディリリーフではなく実在感のある人間だと思えました。
そして今作をあのポン・ジュノ監督をして「イカレてる」と言わしめたのは真理子を演じた和田光沙さんのよるところが大きいと思います。真理子の可愛らしさ、不憫さ、生々しさが胸に迫ってきました。そしてセックスをする度に「私のこと、好き?」と聞く姿は愛情への渇望の現れのように思えました。

映画評論家の町山智浩さんがラジオ番組[たまむすび]で日本映画は何故難病映画が多いのかについて言及されていました。現実にある問題を映画にしても客が来ないからだそうで、要は日本映画の作り手は「そんなの誰も観たくないでしょ?」と思っているからです。

でも私は今作を観れて本当に良かったし、この兄妹を忘れないです。もっと現実を見ようと思いました。
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