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岬の兄妹のギルドのレビュー・感想・評価

岬の兄妹(2018年製作の映画)
4.4
足が不自由な兄:良夫が解雇されたのをきっかけに自閉症の妹:真理子を使った売春を斡旋し生計を立てる・・・が、売春による生計を通じて妹:真理子が少しずつ変化をしていくフィルムノワールな一作。
貧困 / 障がい者 / 性的欲求 / 犯罪 / 暴力 / 陰鬱を描いた作品であるものの、各シーンに記憶に残るような強烈かつ他にはない斬新な展開とアート映画のような映像面の豊かな味わいどころ/味わい深さも合わせた凄い映画だと思う!

 一番良かった部分はキャスト陣の演技と展開で、良夫と真理子の障がいの演出がかなり生々しいことに加えてやっている行為が本当に凄かったです。
特に序盤の真理子の意外な一面に対して激昂するシーンは目の前の行為を本当にかつ本気でやっているんじゃないか・・・?と思うほど異常にリアルかつ暗さがあったし、終盤の学校のプールで行われるとあるシーンは「これ他の映画では絶対にやれないでしょ(笑) めちゃくちゃ強烈なんだけど!」って思うほど体を張った凄さが印象的かな。

 そしてフィルムノワールな語り口なんだけど、実際はどこか笑えるシーン/人物描写が多いのも見どころだと思います。前半の売春の斡旋時のトラック運転手の強烈さ、貧困のあまり"とある物"を食べるシーン、警察官の肇くんと喧嘩する時の良夫の表情変化の面白さ、お爺さんと真理子の売春のシーンのアドリブから生まれる面白さなど随所に見せる面白さが後述する映像面の工夫と相まって奥深い作りで良かったです!

 映像面もしれっと重要な情報や暗示する作り込みが良かったです!
例えば良夫が解雇されるシーンで、奥にポツンと佇む2基の風力発電機で1基は回るがもう1基は回らない…そこから見える良夫の心情演出。売春を済ませた後の世界から見える海と空のシーンで、天と地・生と死、その対極な対象の間に良夫と真理子は生きている・・・が、真理子のフェードアウトから見える自立の暗示・・・という映像中にこの映画の象徴性が組み込まれた作りは周到かつ素晴らしいシーンでした。
他にも貧困のあまりウンコが出ないシーンが実は溜めの構造として起用されている・過酷な現実を突き詰められても生計できる!俺たちは頑張れば稼げるんだ!という心情の変遷を部屋の内装や照明で魅せる繊細さ・・・など映像で魅せる工夫が随所に散りばめられていて、映像で展開を紐解くのが好きな人はより楽しめると思う!

 そんな映像面の作り込みや各シーンの強烈さが凄く良いだけにストーリーのリアリティさが欠けた部分が勿体ないと感じました。リアリティを敢えて狙わない作りは理解できるし、映画だからこそフィクションを持たせる面白さを持つことは悪いことではないけど、このテーマ性なら猶更そこを掘り下げても良いのでは?と感じました。警察官の肇くんが発した「足じゃなくて頭が悪いんだよ」から見える無知と現実の冷たさを魅せるのは理解できるけど、リアリティが欠けていて露悪なシーンの数珠つなぎが先行するのは個人的に少し鼻についたかな。

 でもビッグバジェットどころかミニシアター系の映画でもここまでやれないことを武器に魅せる攻撃的かつ味わい深い映画が日本で生まれることにただただ驚きました・・・露悪でハッキリ言って世界観で見る人を選ぶ作品だけど、この露悪さ/正しくなさにノレる人なら新しい体験に終始、驚き続けると思います。ガッツが見られる挑戦的な作品でオススメです!
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