賽の河原

岬の兄妹の賽の河原のレビュー・感想・評価

岬の兄妹(2018年製作の映画)
3.7
半月映画観ないマンでしたけど、評判良かった『岬の兄妹』。初めて吉祥寺アップリンクで観ましたよ。最悪で最高でしたね。
ぶっちゃけ予告とかストーリー観た時点で「貧困で脚が悪い兄と自閉の妹の兄妹、兄は妹に売春をさせる...」って「テーマ的に露悪さ、過激さを狙いすぎてて品がねぇ...」とか思ってましたけどね、その予想と反して映像・音楽・演出・編集いずれも普通にレベルが高いですし「テーマは攻めてるけど映画の技法は超スマートじゃん、品しかねぇ...」って感じで最高でしたね。
まあ似たような話で言えば『万引き家族』とか『フロリダ・プロジェクト』みたいな話なんですけど、この映画が決定的に違うのは、起こる事象が極めてハードであるという話ですよね。貧困が超ハード。ゴミからソースの小分け袋探り当てて食うとかさ、ティッシュ食ったりさ。セックスシーンの編集とかも最高だし、ルドヴィゴ療法的なシーンも本当に最低で最高でしたね。
兄妹のやることがあまりに場当たり的かつ倫理的に酷い話なので「うっわ...」ってないますけどね、フィクションながら「これが貧困のリアルでしょ」っていう感じすらする。
KKO問題とか氷河期世代とかもそうですけど「救いようのない人々、救われようのない人々」に援助の手を差し伸べるのが「福祉」でしょ。
今の社会、見た目がキモいからとかアタマが悪いから、自己責任だからってことで可視化されない弱者をしばきまくってますけど「救うべき弱者だけを救いましょう」って近代人権思想の崩壊だし、前澤社長のお年玉イズムですよね。
例えば本作でも主人公の兄貴は最低だと思うしアタマ悪すぎだし、生活保護とかないんかいって思いますけど、そんなことに思いが至らないから貧困なんですよね。しかも脚が悪い。
夢シークエンス。「もし脚が悪くなければ幸せな子ども時代を過ごせたかもしれない(=脚が悪かったため十全な子ども時代が送れなかったし、その分性格や考え方もねじれた。コンプレックスのせいでこんな人間になってしまった)」ということを見事に映像だけで描ききってますよね。そこに「お前は脚が悪いんじゃねえ!アタマが悪いんだ!」なんてド正論、正論だけど正しくないでしょ。
そういう想像力を育んでくれるっていうのは物語の力だし、映画の力ですよね。キャストの演技も素晴らしいしこの濃密な話を89分まで絞り切ってる片山慎三監督、凄えっすね。
無論映画を観た後はマクドナルドに駆け込んでバカ食いしましたね。
以前の学校の知り合いの先生の名前がエンドロールで流れて、シネフィルもここまでいくと凄えなと思いましたよ。
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