柏エシディシ

おかえり、ブルゴーニュへの柏エシディシのレビュー・感想・評価

おかえり、ブルゴーニュへ(2017年製作の映画)
3.0
"ワインと愛には時間が必要"
大好きなセドリック・クラピッシュの新作。
舞台はブルゴーニュのワイナリー。
都市に生活する若者を軽妙に描いてきたクラピッシュにしては新境地。
しかし、持ち前のひと好きの良さ、暖かいユーモアは変わらず、劇中のワイン評に倣えば「余計な雑味がなく骨格がしっかりした豊かな味わい」
美味しく頂きました。

父親の危篤をきっかけに故郷に帰ってきた長男とその妹弟たち。
相続問題とそれぞれの悩み。
「放蕩息子の帰還」というお馴染みの題材ながら、クラピッシュらしい軽やかに且つフレッシュに紡いでみせる手際が見事。愉しい。
フィックスしたカメラで彩り豊かに四季の移ろいを見せつつ、主人公の成長を描く冒頭の掴みからしてクラピッシュっぽい。
葡萄の収穫の季節から1年を通して、大きな事件や過剰なドラマに依ることなく、しかし丁寧に自然に、三兄妹弟の変化や成長を活写していく。まるでワインが時を経て、味わいを深めていく様に。

ワイン弱者の自分としては、収穫祭の喧騒やワイン作りの工程のあれこれはとても興味深く。
天候ひとつ、決断ひとつで味が変わり、数年先、数十年先を見越してワインを作る矜持、モノづくりの精神。心が凛とする

一度は故郷を捨て旅立った主人公はクラピッシュ作品の今までの主人公(青春三部作のグザヴィエ)の様で、彼の作中での変遷や終幕での決断が、まるでクラピッシュ作品の今後を占う様でこれはこれで面白い。
次の作品も楽しみに待ちます。
柏エシディシ

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