朝田

この世界の(さらにいくつもの)片隅にの朝田のレビュー・感想・評価

3.9
再編集版というのは大抵単なる蛇足の付け足しに終始し、劣化版になってしまうもの。だが本作は違い、タイトル通り「さらにいくつもの」物語を語る事で、群像劇としての側面を強め、前作とは異なる強度を持った傑作に仕上げていた。特にリンという新たなキャラクターの物語は、ラストにおける周平とすずの関係性をさらに複雑化し、強くしたものに仕上げており、感動を強める。通常のアニメでは省かれるような小さな日常を捉えた場面を本作はひたすら美しく紡ぐ。同時に、アニメでしか表現できないようなあまりに繊細な四季の描写や、飛躍した表現だけで成り立っている(空襲がすずの絵のタッチに変わっていくシーンは美しく、残酷だ)。特に今回見て印象的なのは手元のカット。あらゆる重要な場面で手元が描かれる。その手元の動きだけで人物の内面を描いてしまう凄さ。言葉に頼らない「この世界の片隅に」らしい描写だ。のんの無垢を体現したような声の演技もやはり素晴らしい。改めて、今の日本で公開される意義のある作品であるし、日本でしか作れないオリジナルなアニメーションであると認識した。
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