くわまんG

オーヴァーロードのくわまんGのレビュー・感想・評価

オーヴァーロード(2018年製作の映画)
4.5
奇跡のジャンルミックスを成し遂げた、超高級ボンクラ映画。

みどころ:
手に汗握る多種多様バトル
全登場人物が役割を全う
感情移入できる人間ドラマ
いいさじ加減のグロゴア
鮮やかなジャンルミックス
TOHOシネマズを見直した

あらすじ:
1944年、ノルマンディー上陸作戦。成功のためには妨害電波塔を地上から叩く必要があった。
ネズミ一匹殺せない新兵のボイスは、この十中八九死ぬ落下傘部隊に配属されてしまう。案の定輸送機は大破、隊長は即死。奇跡的に生きて上陸を果たしたものの、歴戦の蛮勇フォード伍長を除けば、残ったのは雑魚一般兵四人パーティ。作戦遂行はおろか生還さえ難しくなるなか、更なる悪夢が一行に襲いかかる……。

70年代、カップルがイチャつく“きっかけ”でしかなかったモンスターパニック映画が、現在ジャンルとして不動の地位を築いているのは、間違いなく『ジョーズ』の功績だと言われています。それまで同様「殺人モンスターに主人公が立ち向かう」プロットだった『ジョーズ』がエポックメイキングな作品となった所以は、スピルバーグがお金と時間を大量にかけて真面目に人間ドラマを加味したからです。結果、観客は登場人物にがっつり感情移入し、肝心のバトルでヒートアップできたんですね。

『オーヴァーロード』は「戦争×ゾンビ」のジャンルミックスです。聞いただけでため息が出るプロットですが、僕はこの作品に“第二の『ジョーズ』”の匂いを感じましたよ。無論50年前と違って観客の目は肥えていますが、僕たちが映画に求めるのは、結局エンタメとドラマです。本作は、真剣にエンタメとドラマ作りに取り組んでいます。

まず、迫真の戦争アクション。降下、合流、潜入までが“戦争パート”になりますが、一口で言えばどの場面も怖いんですよ。臨場感たっぷりの映像と演出、細かく緩急のついた脚本、ずっとスリリングで目が離せません。もうこの時点で息も絶え絶えですが、頼みの綱フォード伍長に導かれ、軟弱な主人公とともに“ゾンビパート”への扉をしぶしぶ開けることになります。

メンター(主人公の成長を促す年長者)であるフォード伍長を演じるのはワイアット・ラッセル、なんとカート・ラッセルのご子息なんですね。お父さん譲りの“善悪定かならぬ怪しさ”がプンプンする、素敵な俳優さんでした♪

後半、いよいよゾンビとの対面ですが、「注射すると超人化するタール」というバカ設定で一気に現実味が失せます。これはもちろん意図的な変調なんですが、とかく「なんだそりゃ…」とがっくり来がちなポイントを、この映画は驚くほど自然に乗り切ります。というのはこの場面、観客の緊張はボイス同様ピークに達しており“考える前に動くしかない”ので、「タールってどうよ」とかツッコんでる場合じゃなくなるんですよ。

ターニングポイントである“目の当たりにする”局面で、複数の人間が変化するのがまた非常に燃えます。美点をそのままに大きく成長した主人公、非協力的だった仲間の恭順、そしてメンターの覚悟。ここで“優先順位”の葛藤は無くなり、物語は「正義VS悪党」に集約され一気に加速、クライマックスもボタボタと手汗が垂れ続け、文字通り大爆発でカタルシスが大爆発します。

この通り、エンタメにドラマに文句無しの大傑作なのですが、唯一気になったのは、チェイスの役割はジェイコブが果たした方がよかったのでは…という点です。そうしちゃうと、後々ティベットが無理ゲー過ぎたりと不都合も生じますが、主人公との関係性を考えるとやはりジェイコブの方が適役だったように思えますし、最後もチェイスにカメラを使ってほしかったなぁ、なんて思いましたね。

スピルバーグがボンクラ映画を昇華させてから45年。スピルバーグファンのJ.J.は、大作か否かの二分化が進む現代に、果たして風穴を空けることができるのでしょうか。僕はめちゃくちゃ応援してます。そして最後に、どういうつもりでかはさておき、本作品を上映してくれたTOHOシネマズに一言。

ええぞええぞ!もっとやれ♪