Dick

ナイチンゲールのDickのネタバレレビュー・内容・結末

ナイチンゲール(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

1. 初版2020.04.16

❶相性:良好。

➋「復讐」をテーマにした映画には、内外&新旧を問わず、心に響く名作・傑作が多い。
①それは、次の2つの理由により、観客の心が掴みやすいのだと思う。
ⓐ映画を通してカタルシスが得られること。
ⓑ現代法では許されない「復讐」を疑似体験出来ること。
②日本の武士道に於ける「仇討ち」は、今の解釈では問題もあるが、復讐の連鎖を防ぐ意味では、世界に誇れる良い制度だったと思う。
③自然災害等の不可抗力の場合を除き、大切な人、愛する人を理不尽に殺された場合、犠牲者を慰めるには、「復讐」がベストだと信じている。

➌本作は、1962年生れのオーストラリアの女性監督ジェニファー・ケントが監督・脚本・共同製作の3役を担当し、英国植民地時代のオーストラリアを舞台にした一人の女性の復讐劇。
①1825年、オーストラリアのタスマニア島から幕が開く。
②タスマニア島は、かつては先住民・アボリジナルが暮らす土地だったが、イギリスによる植民地となっていた。そして、英国軍人、流刑囚、看守、労働者等が住むようになり、アボリジナルは彼らに弾圧され、別の島に強制移住させられていた。
③流刑囚となった若くて美人のアイルランド人のクレア(アイスリング・フランシオシ)は、刑期を終えても釈放されずに、イギリス軍将校ホーキンス(サム・クラフリン)に囲われて、食堂の賄いに加え、美しく着飾って、軍人に歌を聞かせる仕事を務めていた。
④下働きのエイデン(マイケル・シェズビー)との結婚を許されたクレアは、娘に恵まれ、ひたすら自由の身になることを心待ちにしていた。
⑤しびれを切らしたエイデンがホーキンスと直交渉するが、逆上したホーキンスは、エイデンの目の前で、クレアを部下達とレイプした上、今度はクレアの目前でエイデン殺して、しかも部下のジャゴ(ハリー・グリーンウッド)に幼い娘を殺させてしまう。何たる惨い仕打ちか!。気弱なジャゴは殺したくなかったのだが、上官の命令には逆らえなかったのだ。
⑥クレアは復讐を誓うが、ホーキンスは上官に昇進を直訴するため、部下達を連れて、北部の町ローンセストンへ出発してしまった。森林地帯を超えて数日かかる、ガイドなしには行けない厳しい旅である。
⑦クレアは、先住民のビリー(バイカリ・ガナンバル)にガイドを頼み、ホーキンスの後を追う。イギリス軍に家族を殺され土地と財産を奪われたビリーは、復讐する機会を狙っていたが、旅の途中で、もう一つ大きな理由が出来た。それは、ビリーと同胞のアンクル・チャーリーがホーキンスに殺されたことである。チャーリーは先に出発したホーキンスのガイドを務めていたが、時間がかかりすぎると咎められ射殺されたのだった。
⑧さあ、お膳立ては整った。いよいよ、お待ちかねの復讐の幕が切って落とされる!
⑨最初の標的は娘を殺したジャゴ。ホーキンス一行が森林で先住民の女性を見つけレイプし銃殺する。そのため、先住民の仲間に襲われ、ジャゴが負傷するが、ホーキンスはジャゴを置き去りにする。そこにクレアが追いついて、ジャゴを何度も突き刺して殺す。クレアはジャゴがホーキンスの命令に逆らえず、已む無く娘を殺したということを知ってはいたが、直接手を下したジャゴを、どうしても許せなかったのである。
⑩次は、ホーキンス。町に着いて、上官と懇親しているホーキンスを見つけたクレアは、皆の前で、ホーキンスの悪行を告発したのだった。クレアとビリーは逮捕されるが、ホーキンスは面子が丸つぶれになり、出世の道は閉ざされてしまう。
⑪その夜、脱出したクレアとビリーは、ホテルに忍び込み、ビリーがホーキンスを射殺する。その後、2人は海岸にに向かい、復讐が完了した喜びを噛みしめるのだった。

➌クレアとビリーは旅の途中で、色んなめぐり逢いに遭遇する。その脚本が上手い。
①先住民のビリーにとって、白人のクレアは憎い敵に当たる。しかし、クレアが愛する娘と夫を英兵に殺されたことをビリーが知り、ビリーの家族が英兵に殺されたことをクレアが知ったことで、親近感が生れ、強い絆となっていく。
②森で道に迷ったクレアは、うぐいすのような小鳥の綺麗な鳴き声に導かれてビリーと合流出来る。この鳥は殺されたエイデンと娘の象徴のように思えた。クレア自身も、何度も美しい歌声を披露してくれる。これ等はタイトルの「ナイチンゲール」を想起させるものである。
③本作には、3種類のイギリス人が登場する。
ⓐ一番はホーキンスのような冷酷非情な人。
ⓑ次がジャゴのように、根は善良だが、上官の命令とあらば、赤子を殺すことにも手を染める人。
ⓒそして最後は、クレアとビリーの旅の終盤で、ひもじい2人ために食事を寝場所を用意してくれる親切な人。
④ビリーは自身の経験で、先住民にも良い人と悪い人がいると語っている。これは、いつの時代、どの民族にも当てはまることである。

❹まとめ
復讐を成し遂げたクレアとビリー。2人の将来のことは描かれていない。
そのまま逃げ通して幸せになるか?
逮捕されて、悲惨な最期となるか?
どんな事態になろうとも、2人に後悔はない。そう確信した。

❺トリビア1:同時代のオーストラリアを舞台にした映画 『武装強盗団』
①本作とほぼ同時代、1860年代のオーストラリアを舞台にした珍しいイギリス映画があった。
『武装強盗団(1958英)Robbery Under Arms』日本公開:1958/4。
監督:ジャック・リー、出演:ピーター・フィンチ、ロナルド・ルイス、ローレンス・ナイスミス、デイヴィッド・マッカラム(★1960年代の人気シリーズ『0011ナポレオン・ソロ』のイリヤ・クリヤキン役で有名)、ジル・アイアランド。

②イギリスの植民地だった当時のオーストラリアは、アメリカに次ぐゴールド・ラッシュの時代で、金鉱が発見されたシドニー近郊に、世界中から大量の労働者や山師が押しかけ、治安が悪化し、無法者やお尋ね者が横行していた。この映画は牛泥棒や山賊の物語。
③小生がリアルタイムで観たのは、中学生の時。オーストラリアを舞台にした映画を観たのは、これが最初で、恐ろしい国だと思った記憶が残っている。
③共演したデイヴィッド・マッカラムとジル・アイアランドは同年に結婚したが、10年後離婚している。

❻トリビア2:アンデルセン童話「ナイチンゲール」
①ナイチンゲールと聞いて、直ぐ思い浮かぶのは次の2つ。
ⓐアンデルセンの童話「ナイチンゲール(Nattergalen、小夜啼鳥、夜鳴きうぐいす)」
ハンス・クリスチャン・アンデルセンの創作童話の一つ。中国を舞台にサヨナキドリの鳴き声をめぐって展開していく物語で、当時ヨーロッパで流行していたシノワズリの影響を受けている。アンデルセンが童話作家として充実していた時期の作品であり、『みにくいアヒルの子』などとともにアンデルセンの童話の中で最も有名なもののひとつである(Wikipedia)。
ⓑ実在の看護婦(今の看護師)、フローレンス・ナイチンゲール(Florence Nightingale、1820- 1910)。
イギリスの看護婦、社会起業家、統計学者、看護教育学者。近代看護教育の母。病院建築でも非凡な才能を発揮した。クリミア戦争での負傷兵たちへの献身や統計に基づく医療衛生改革で著名(Wikipedia)。
②監督・脚本のジェニファー・ケントがⓐを意識していたかどうかは知らないが、うぐいすのような美しい声の小鳥が重要なキーになっている点で、関連がある。

❼トリビア3:アスペクト比1.37
①本作の画面の縦横の比率(アスペクト比)は、今は使われていない「1.37」。1932年にアメリカの映画芸術科学アカデミーが定めた所謂「スタンダード・サイズ」である。
②ジェニファー・ケントがどうしてこんな昔ながらのサイズを採用したのだろうか? 理由は知らないが、昔の雰囲気を狙ったのかも知れない。


2. 追記2020.05.06

❶賞(代表例):

①Australian Academy of Cinema and Television Arts (AACTA) Awards 2019
ⓐ受賞6部門:・Best Supporting Actress(Magnolia Maymuru)、・Best Direction(Jennifer Kent)、・Best Film(Kristina Ceyton、Bruna Papandrea、Steve Hutensky、Jennifer Kent)、・Best Lead Actress(Aisling Franciosi)、・Best Screenplay(Jennifer Kent)、・Best Casting(Nikki Barrett)
ⓑノミネート9部門:・Best Lead Actor(Baykali Ganambarr)、・Best Cinematography(Radek Ladczuk)、・Best Supporting Actor(Damon Herriman)、・Best Supporting Actor(Michael Sheasby)、・Best Editing(Simon Njoo)、・Best Production Design(Alex Holmes)、・Best Costume Design(Margot Wilson)、・Best Hair and Makeup、・Best Sound

②Australian Film Critics Association(AFCA) Awards 2020
ⓐ受賞8部門:・Best Film、・Best Actor(Baykali Ganambarr)、・Best Actress(Aisling Franciosi)、・Best Supporting Actor(Sam Claflin)、・Best Supporting Actress(Magnolia Maymuru)、・Best Director(Jennifer Kent)、・Best Screenplay(Jennifer Kent)、・Best Cinematography(Radek Ladczuk)
ⓑノミネート1部門:・Best Supporting Actor(Damon Herriman)

③ヴェネツィア国際映画祭Venice Film Festival 2018
ⓐ受賞2部門:・Marcello Mastroianni Award/Best Young Actor or Actress(Baykali Ganambarr)、・Special Jury Prize(Jennifer Kent)
ⓑノミネート1部門: Golden Lion/Best Film(Jennifer Kent)

➋評価:
①Rotten Tomatoes:227件のレビューで、批評家支持率は86%、加重平均値は7.5/10。
②IMDb:14,357件のレビューで加重平均値は7.3/10。


■原題「The Nightingale/ナイチンゲール(鳥:小夜啼鳥(さよなきどり)、夜鳴きうぐいす、〈比喩〉美声の人、〈俗〉裏切り者、密告者)」
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