10円様

ナイチンゲールの10円様のレビュー・感想・評価

ナイチンゲール(2019年製作の映画)
3.6
久しぶりのレビューです。でも皆さんのはキチンと拝見してましたよ!

これは時代背景が分からないと「?」ってなる映画ですね。映画はイギリスによる民族浄化運動、いわゆる「ブラックウォー」の真っ最中の話です。当時イギリスは犯罪の重軽、年齢問わず誰でも絞首刑にしていたといいます。いくらなんでもやりすぎじゃ…という倫理的観点から流刑罪に切り替えたんですね。最初はアメリカ大陸にある島を流刑地にしたんですが、アメリカが独立したんで無理になり、代わりにオーストラリア大陸を発見したんで植民開拓者として罪人はそこへ送られました。そこでやっぱり問題になってくるのは先住民で、イギリスは軍や開拓者を使ってアボリジニ達を殲滅しにかかります。どうも植民地のヒエラルキーは先住民より囚人が下というものですが、白人のプライドが故に簡単に受け入れられず、逆に火に油を注ぐ形になりました。
ちなみにもう少し時代を追うと新たな民族浄化運動としてアボリジニの女性と白人男性に子を産ませ、数世代すれば完全にアボリジニの血はなくなるって事もやってました。こちらは「裸足の1500マイル」という名作で描かれているので興味のある方は是非どうぞ。

で、肝心の内容なんですけども、夫と子を殺されたクレアが話がメインになってほしかったんですが、途中から迫害されたアボリジニのビリーの復讐劇も入ってくるんですよね。理由はちゃんとわかるし敵意の先は同じだし、成し遂げてほしいんですが、これ誰の映画なの?ってなるんですよね。ブラックウォーの中、先住民が迫害者に矛先を向けるというのも良い展開、でもこれはクレアの私闘なわけであって、彼女には最後まで戦う女でいてほしかったのです。

中途退出しゃが出るほどのバイオレンスシーン、レイプシーンは確かにやるせないものがありました。だからこそクレアに信念を貫いて欲しかったのです。ただこの映画は復讐劇というよりも、タスマニア島での最底辺の民族アボリジニと流刑囚人との人間味溢れる交流がミソなところではないでしょうか。最初はボーイに高圧的な態度をとっていたクレアですが、次第にビリーと本名で呼ぶようになり、彼等の儀式まで受け入れられるようになって行きます。最後はビリーを守ろうとさえしました。
監督は敵意を剥き出しに追跡する中で、タスマニアの霊験あらたかな大自然とアボリジニの人を愛する心を少しずつ学んで行く姿を映したかったのではないでしょうか。
クレアが完全に復讐を諦めてから、ラストの10分間くらいですかね?本当の復讐が始まります。それもなんたがめちゃくちゃ後味が悪い結末です。
淡々と続く136分でしたが不思議と飽きずに最後まで観る事ができました。というのもブラックウォーの内状やイギリス軍(一部)の非道さが、現実のように突き刺さってくるんです。
とても暗〜くなる映画ですが、是非とも「裸足の1500マイル」と一緒に観てください!
10円様

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