朱音

7月22日の朱音のネタバレレビュー・内容・結末

7月22日(2018年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ポール・グリーングラス監督の新たな代表作だと思う。
2011年7月22日にノルウェーで実際に起きた連続テロ事件の犯人ブレイビクと、彼の弁護を引き受ける事となったリッペスタッド弁護士、巻き込まれた被害者ヴィリァル少年とその家族を、事件が起きたその日から判決が下るまでを時系に沿って描くノンフィクション・ドラマで、抑制の効いた演出、徹底したリアリズムの中に、映画的なダイナミズムとエモーションをきちんと生み出すその手腕が存分に発揮されている。
全編を通して特定の人物の心情を表すような演出を極力排し、フラットに描かれている。映画の冒頭では群像の中のひとりに過ぎなかった人物に徐々にフォーカスが当てられ、物語が進むにつれてしっかりとキャラクターが浮かび上がってくる演出と脚本が素晴らしい。
ヴィリァル少年、彼がこのドラマの中心人物として置かれる事になったのは、彼がたまたまそこに居合わせた「被害者」のひとりになってしまったからであり、それはそのまま誰の身にも起こり得る事を意味している。

そこに居る人々の恐怖に怯えた息遣いまで聞こえてくるような、淡々と、そして圧倒的臨場感で描かれたテロのシーンはあまりにも無慈悲で目を背けたくなるが、同時にこの映画で最も素晴らしいと感じた場面でもある。

あまり有名ではないノルウェー人俳優を多く起用したことにより、この作品のノンフィクション的な信憑性を高めているが、どの役者も繊細で確かな演技でそれぞれのキャラクターに実存感をもたらしていて、今後注目に値する素晴らしい役者を知ることが出来たのも嬉しい。
中でもリッペスタッド弁護士を演じたヨン・オイガーデンは、図らずも面識のないブレイビクに一方的に指名され、世間の非難の声を浴びながら、自らも義憤を抱きつつも感情を決して表に出さず、弁護士としての職務を全うするというキャラクターを表情や仕草、ちょっとした言葉の抑揚などで繊細かつ緻密に表現していて感激してしまった。
またたった一人で77名の命を奪い、100名以上の負傷者を出したテロ事件の犯人であるブレイビクの、自分の行いの正当性を信じて憚らない不遜さを、スッと伸びた背筋、大きく見開いた眼光鋭い、存在感のある佇まいで、誤解を恐れずに演じきったアンデルシュ・ダニエルセン・リーにも称賛を贈りたい。
朱音

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