回想シーンでご飯3杯いける

7月22日の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

7月22日(2018年製作の映画)
4.5
(Netflixオリジナル映画を連載形式で一気にレビュー。6作目)

今回の連載レビューで最も満足度が高かったのは、2011年にノルウェーで発生したテロ事件を描いたこの作品だ。実話物、特に戦争やテロを題材にした作品は、おうおうにして国家権力を極端にヒーローとして描くプロパガンダ映画になりがちで、あまり好きではないのだが、この「7月22日」はこれまでの同種の作品とは違う真摯かつ斬新な手法で、テロ問題の核心を鋭く描き出した力作である。

題材になったテロは、単独犯による犯行で、爆弾と銃乱射により計77人が死亡(大半が学生)するという、非常に惨い事件であった。イスラム過激派によるテロの場合は、自爆テロの手法が取られる為、犯人は既にこの世におらず、結果的に被害者側の視点のみで映画が出来上がってしまう場合が多いが、本作のテロは犯人が存命で、そのまま法廷で争われた為、犯人の人間像や犯行の動機を描く事が可能になる。

本作ではテロ・シーンを冒頭の約30分に収め、以降の約2時間を、裁判シーンと、5発の銃弾を浴びながら奇跡的に助かった少年の再生を描く事に費やした。右翼系過激派(自称)の犯人の妄想に満ちた犯行動機と、その犠牲になった少年の再生に向けた生命力の対比を描く事で、事件の深層的な原因と惨さをあぶりだしていく手法は、他の対テロ映画を寄せ付けない圧倒的な説得力を有しており、大きく心を揺さぶられる。少年の家族や友人、当時の首相、犯人を弁護する人権派の弁護士(この人の存在も非常に重要)も物語に加わり、群像劇としてもとても見応えがある。

本作は「テロ怖い」「犯人不気味」と煽るだけの作品ではない。事件をリアルに描き、裁判での証言もリアルに描く事で、ドラマティックな台詞が無くとも、観客に考える事を要求する作品である。それを体現しているのが、恐ろしいほどにシンプルなタイトルだ。原題を直訳するのみに留めた邦題も良い。これが劇場公開作品なら、大げさな副題が付けられていたのではないだろうか。Netflixオリジナル作品は、劇場での集客に縛られない為なのか、原題を尊重したシンプルな邦題が多い点にも注目したい。