あんがすざろっく

7月22日のあんがすざろっくのレビュー・感想・評価

7月22日(2018年製作の映画)
4.3
2011年7月22日、ノルウェーのオスロ市街での爆破テロ事件、またウトヤ島で起きた無差別銃乱射事件を題材にした作品です。

同じ頃、同じテーマで描かれた「ウトヤ島、7月22日」という作品がありますが、こちらはまだ未見なので、いずれチェックしてみたいと思います。

本作の監督はポール・グリーングラス。
ピンとくる方も多いはずですね。
マット・デイモンのジェイソン・ボーンシリーズのほとんどを手がけ(このシリーズもいずれレビューをあげたい)、その小気味よいカットとテンポで、最後までテンションを持続させる作風は、
もう職人技です。

グリーングラス監督と言えば、僕にはアメリカ同時多発テロ発生時に行方不明になった航空機のパニックを描いた「ユナイテッド93」が鮮烈です。
社会派とエンターテインメントのバランス感覚がとにかく秀でている印象が強いのです。
だから今回の「7月22日」も、テーマも勿論ですが、グリーングラス監督の作品というのが一番惹かれた理由です。
もともとドキュメンタリーで腕を磨いた監督なので、実話ベースの作品は彼の真骨頂です。


「ウトヤ島〜」は事件当日の現場そのものをワンカットで描いた作品とのことですが、本作は事件そのものを描いたシーンは、作品の半分もないのではないでしょうか。
その分、短い中に息も詰まりそうな恐怖が凝縮されています。

驚くのは、事件の後の被害者、容疑者の姿を丹念に描くことに注力している印象があったからです。
特にブレイビク容疑者の人物像を、はっきりと描いていること。
何を考えているか分からない、漠然とした犯人像にはなっていないので、この事件の経緯がしっかり伝わってくる内容です。

本作についての情報が比較的少ない中、色々調べてみると、このウトヤ島の事件を題材にした作品は前述した「ウトヤ島〜」の他にも何本か製作されているようでして、ほとんどがノルウェーの監督やスタッフが携わっているようなんですね。

必然的に、容疑者を描くよりも、被害者の方々に寄り添う作品になっているそうです。
それはそうですよね、被害者の感情を逆撫でる作品は作れようもない。

ただ、ノルウェーの外の国の人にこの事件を知ってもらうには、本作のような描かれ方も必要だったのだと思います。


この作品の容疑者の描かれ方には、揺るぎない明確な意図が見えます。
決してブレイビク容疑者の思想を煽動させる為ではない。
どちらかと言うと、何を憎めばいいか、その対象が描かれただけ、気持ちの行き場がはっきりしているんです。

と、僕は解釈しました。


キャストの方々もほとんど知らない方だったので、逆に余計なフィルターもなく、すんなりと話に入れました。
弁護士役の俳優さんを何かの作品で見ているはずなんだけど、思い出せない…。

ラストにその弁護士と容疑者が獄中で会話を交わすのだけど、このシーンが僕は一番好きでした。
世の中には色んな思想や理念を持つ人がいるし、相容れないことだってあると思います。
それについて議論することは大事だと思うんですけど、相手の全てを踏みにじってまで、身勝手な正義の押しつけや暴力で物事を解決しようとするのは、やはり間違っているよな、と改めて考えてさせられた作品です。
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