とし

ROMA/ローマのとしのレビュー・感想・評価

ROMA/ローマ(2018年製作の映画)
4.3
メキシコの路地裏。スクリーンに目を奪われ、息を飲む。モノクロの写真展から抜け出せない感覚は、もはや色彩のラビリンス。眩い光と影で構成された世界では、犬のフンたちさえも美しい。映画に込められたメッセージなど追わず、この1971年のコロニア・ローマへ飛び込め。本能を担当する私がそう呟きます。目を閉じれば、耳元で、少し遠くで、鳴るわ出るわ、あんな声こんな音。キュアロン監督が幼少期に浴びたであろう無数の小さな"空気の振動"が、大洪水となって圧倒的な日常へと誘う。BGMが無い。環境音だけでこんなにも惹きつけられる作品を、他に知らない。知らないと言えば演技未経験らしい、ヤリッツァ・アパリシオ。こういう奇跡の大抜擢に、めっぽう弱い。当時の社会情勢や民族、ある中流家庭の光と闇を映しながらも、やっぱりこれでもかと彼女に寄り添う作品。すやすやと寝ている天使の微笑みを、歌声で起こす彼女を、私は信じて止みません。浜辺の砂で積み重ねた小さな幸せの家が、ふとした波で掻き消されたり。波が引いたあとに、少し残っていたりして。最後には、見たこともない潮騒が涙と一緒にすべてを流してくれた。モノクロームでも、空や海ってこんなにも美しい。闇の向こうの光を見に行こう。聞かせてほしい 君の中にある 光と陰。あれ、永積くんの声だな、こりゃ。
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