うめまつ

ROMA/ローマのうめまつのレビュー・感想・評価

ROMA/ローマ(2018年製作の映画)
4.2
怖いくらい大きな潮騒が体の隅々まで押し寄せて、肺や胃や子宮の内側まで波と泡で満ちてゆくような、海と自分との境目がなくなるような錯覚に陥った。光る砂浜に目を細めながら、月面に降り立って観る景色はこんな感じなのかなぁと思った。互いの輪郭を消して寄り添い引き立てあう、光と影の緻密なデッサンに140分間見惚れていた。美しいなと思う隙もないくらいずっと当たり前に美しいことが不思議だ。綺麗なものや素敵なものは殆ど映されていないのに。災害や暴動や血や汚物のすぐそばで、悲しみや憎しみと絶えず面会しながらも淡々と日常は続く。愛は近づいたかと思えば勝手に磁力を変えてまた離れて行く。世界中の誰もがそんな繰り返しの中を生きているんだと教えられた気がした。

「私たち(女)は独り」だとマダムは言った。本当にその通りだと思う。いつ誰と居てもどんな関係性でも女と女は独り同士なんだと思う。でも互いに慈しみ合えれば、どんな形でも独りと独りのままでも家族になれるのかもしれないと思えた。生まれ育った国も環境も違う、出会うはずもないクレオの事を小さな妹のように感じる。彼女の長くて綺麗な髪を梳かしたり、蝋燭の灯りの中こそこそ内緒話をしたい。無口でシャイな彼女を笑わせたい。もし辛いことを思い出して泣く夜が来たら一緒にさめざめと泣きたい。そして疲れたら死んだように眠って朝を待とう。潮が満ち月が欠け夜が明けることだけが私たちを明日へと運んで行く。
うめまつ

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