次郎

ROMA/ローマの次郎のレビュー・感想・評価

ROMA/ローマ(2018年製作の映画)
4.5
『ゼロ・グラビティ』監督による、エグいくらいに完璧な映像美。冒頭の床を洗う水面に飛行機が写るシーンからして震えるのに、それがクライマックスのシーンに繋がっていく辺りはもう圧巻。カメラは一切ブレることなく右から左への描写を撮りながらもクライマックスではそれが突如反転し、上下の移動はオープニングとエンディングでのみ用いられる、徹底してコンセプチュアルなカメラワーク。

全編を通して画面の近景/遠景における対比、ガラスや鏡に映っているもの/その奥にあるものといった対比が計算され尽されていて、シーンの一つひとつの構図が圧倒的に美しい。対比は同時に男女や貧富の差にも繋がるのだろうけど、70年の不安定な政情に揺れるメキシコ―それは監督自身のノスタルジアであり、だからこそ本作はモノクロームな世界なのだろう―のリアリティが補完している。

タイトルから最初はイタリアの話かと思ったけどメキシコシティのローマ地区の事であり、また逆から読めばAMOR、スペイン語で「愛」の意味にもなる。繰り返し出てくる飛行機やマーチングの楽団はやはり前に進むことのメタファーなんだろうか。描写の数々も暗喩が散りばめられていて、他の人も感想を見ながらあれこれと考えたくなる。

なお、本作にはサントラとは別にアーティストが本作を観た上で曲を書き下ろした『ミュージック・インスパイアード・バイ・ローマ』というアルバムが存在している。中でも2019年最大のダーク・ポップ・アイコンであるビリー・アイリッシュが提供したWhen I Was Olderはシングルカットもされており、本作で実際に鳴っていた音を楽曲にサンプリングしながら2019年らしいポップ・ミュージックの形に昇華させている。こちらも必聴。

https://www.youtube.com/watch?v=0I4fD49Gbck
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