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ROMA/ローマのakqnyのレビュー・感想・評価

ROMA/ローマ(2018年製作の映画)
5.0
〜ただの床、犬のフンで汚れた床に水を撒いて掃除する日常にも、たしかに空が映った〜

1964年〜82年まで続いた"汚い戦争"と呼ばれる国内冷戦下での、メキシコシティのローマ地区。欧米系の白人と先住民の家政婦の家族の関係性は、本物のドキュメンタリーに錯覚するほど当時の生活が生々しいほどにリアルで物語もスッと入ってくる。

モノクロで、異国人には馴染みのないメキシコ70年代ものなのに、撮り方ひとつで映画はこんなにも変わるのかと衝撃を受けた。物語もカメラワークも全ての完成度が素晴らしすぎたので、続けて2回見たけど、伏線や暗示、細かいところまで監督のこだわりが感じられて飽きない。こんなに色と光が見える映画ははじめて。


キュアロン監督の半自伝的映画でもあるそうですが、家族という最小単位の営みを描いている中に、やはり歴史や社会問題は切っても切れない。

メキシコはメソアメリカ諸国と同じく多民族国家。一つの国家として形になってからも様々な文化的歴史的背景を併せ持つことから、格差是正や共存を求めて度々革命が行われ、メキシコ革命以後はそのあり方として、社会主義的ながらも経済は資本主義的な矛盾をはらんだ左派のPRI(制度的革命党)が独裁ながらも文治政治を71年間敷いた。
他の中南米各国が軍事独裁政権によって社会保障後回しみたいな状況のなか、これだけの国を、衝突はありながらもなんとかまとめてきたメキシコ人の誇りみたいなもの、民族はバラバラでもメキシコ人として繋がっているナショナリズムみたいなものは相当なものだと思う。
日々は決して豊かではないかもしれないし嫌なことも歴史的な問題も沢山あるけど、その悲しみを包み込むくらいのメキシカンの愛を、キュアロンは描きたかったのではないか。


その一例として、71年6月10日に行われた、政府の息のかかった民兵による学生デモ弾圧事件を描いている。(当時のルイス・エチェバリア大統領は、大規模なインフラ投資によって国内経済の改革を試みた反面で、自身に反発する学生デモに対して大規模な粛正を度々行っている)

武術に人生を救われたと言ったフェルミン。しかし、実際はエチェバリア政権による大規模なインフラ開発の恩恵を受ける地域で行われた、政府による弾圧のための民兵の育成であり、彼はそれをおそらく知らないままに銃を取り、名ばかりの正義を謳い暴れる。そしてまた彼の正義が、クレオを破水させた事実も、クレオと自分がベビー用品店にいたことも、ずっと知らないままであろう。

破水したクレオに声をかけるが診察しようとしないアントニオ。彼もおそらくこの政治混乱も、家族のことも、クレオのことも、気を遣っているように見えて、本心では心底どうでもよく、他人事なのだろう。

そして女と子どもたちは男たちの身勝手さに耐えながらも、屈することなく日常を日常として過ごすことを通して、愛を深めてゆく。いくら犬がフンをしようとそれを洗い流す水のように。


ママが身の丈に合わないフォードのギャラクシーから軽に変えたことがこの映画の愛の象徴のような気もして、なんか救われたな。この映画ではママの人間味が際立っていて好き。

(他の方のレビューで見たのですが、Romaのダブルミーニングで逆から読むとAmorになるのは気づかなかった…)
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