はじまりからおわりまで、ある種の映画的完全さをそなえた大傑作。
あえてモノクロで撮られたその映像が、雑多なメキシコシティの街並みから森や海といった自然の風景までを、このうえなく美しくひとつの世界にまとめている。
記憶のなかのイメージが美しく洗練されているように。
冒頭の流される水の音から、ラストの鳥の声まで、繊細な環境音に満ちているのもおおきな特徴か。
せまいエントランスの空間、そこから出られない犬、学生の暴動と警官による虐殺、ひろがる海、空を行く飛行機……。
すべてのモティーフが密接に絡みあい、それらのメタファーが、このうえなく雄弁でありながら、ひとつも過剰にならない奇跡的なバランスを保っている。
