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記憶にございません!の超新星のネタバレレビュー・内容・結末

記憶にございません!(2019年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

支持率過去最低の総理大臣が記憶を失い汚職が横行する政界を立て直す!
端的に言えば記憶喪失物のコメディで、前半は記憶を失うまでと失ってからのギャップに周囲の人たちが戸惑う王道展開。
コメディ色が強く、有名どころで言えば結婚前夜に飲みすぎて記憶が飛んでしまった「ハング〇ーバー」に近いでしょうか。

けれどあれほど下品ではなく、感動のエッセンスも多分に盛り込まれており日本人にとって、特に二十代以上の選挙権を持つ人にとってはなかなか心を揺さぶられる映画ではないかな、と私は思います。とはいえ愚生、正直政治には疎い部分もあり実際にこれほどの汚職が横行しているのか、また過去にモチーフになるような事件があったのかまでは定かではありませんが、身近でありながら、どこかテレビの向こう側の出来事に感じてしまいがちな”政治”というものを学ぶきっかけとなるのに、十分な求心力があるかと存じます。

さて物語についてですが、雑把なストーリーラインとしては不倫に賄賂に恐喝その他もろもろの汚職について前半で触れており、中井貴一演じる黒田総理が腐り切った政界を真面目さと勤勉さと、なにより誠実さでそれらの歪みを正していく物語となります。

物語性に捻りはなく、シンプルに物語が進行して前半に積み上げた問題を一つ一つ解決していく展開となります。

この言い方では「え、どんでん返しもないんじゃ面白くないんじゃないの?」と思われがちですね。
実際、物語と言えば一筋縄ではいかない大きな問題を知恵を絞って解決し、そのまたさらに先に予期せぬ難関が待ち受けており機転(劇中の経験)を利かせて解決する……というのが古き良き面白い物語のパターンです。

でもこの作品は面白い。それは断言できます。

なぜなら時流、言い換えれば”流行り”にのっているから。

この物語を仮にライトノベル風のタイトルをつけるとするならば「目を覚ますと総理大臣だった俺は有能な部下と類まれぬ幸運で政界再構築を実行する!」
的な感じです。

そう、この物語の根幹にあるのは見ている人をとにかく気持ちよくさせる成功!成功!成功!の連続。
主人公に自己投影できればこれほど気持ちいいものはないかと思われます。

斜に構えた見方をすれば主人公の黒田総理が過去に行った悪行が帳消しになったわけでもなし、それに記憶を失いながらも総理を続けるというご都合主義の上に成り立っています。(あと税金問題も棚上げマイナス0.5)

そのあたりのリアリティの無さをコメディで受け入れさせ、さらに”感動”のエッセンスを加えることでバックグラウンドを想像させない、もっと狭い視野で見せるテクニックが使われています。
でも効果が薄いので見終わった後の熱が冷めてくるとだんだん「んー」って思うかもしれません。

それにいちおう形だけではありますがラスボスの鶴丸が官房長官を退いてからもスナイパーをやとったり息子の飲酒事件をマスコミに流そうとしたりとデス〇ターの役割を担っていました。(とはいえ総理を追い込む勢いがなかったので正直あまり盛り上げる機能は果たしていませんマイナス0.5)
が、役割を果たしきれず一部の伏線は尻すぼみに解決です。(息子の飲酒は見逃されました。子供の将来を奪うような悪人はもういない、的な改心の描写に使うにしては少しもったいない気がしましたマイナス0.5)

13フェイズ的な手法も取り入れつつ、視聴者にストレスを与えない本筋の作り。
笑いと感動に重きを置いたサブストーリーの展開。
一つの物語に詰め込んで回収するにはギリギリの量だと思いました。
ちゃんと最後に記憶が戻る伏線も張ってありました。

この構成力はさすが長年監督権脚本家としてやっていらっしゃる三谷先生だなぁと思います。

重厚な物語を求める人にはあまりおススメできませんが、
肩の力を抜いて余暇を充実させたい人にはおススメの一作であることは間違いありません。
みんなこれ見て選挙に行きましょー!
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