ずどこんちょ

ラストレターのずどこんちょのレビュー・感想・評価

ラストレター(2020年製作の映画)
3.7
初恋の人とは会わない方が良い、などとも言いますが、あの時会っておけば良かったと後悔することもあるのかもしれません…。
同窓会での再会から始まる文通。亡くなった姉のふりをして妹は手紙を送ります。
手紙を受け取った売れない小説家は、彼女に会いに行くために東京から懐かしの宮城へと訪れるのです。

岩井俊二監督らしい雰囲気。福山雅治や松たか子、広瀬すずらキャスト陣も豪華で素晴らしいです。
淡い青春の恋模様や大人の傷は、どんな人にも共感できる懐かしさや切なさがあるかもしれません。
真っ先に気付いたのは、とにかく映像がきめ細やかで美しかったことです。冒頭の小さな滝のシーンから、青々とした緑の葉の色や髪の毛の細かさも鮮明に映っている。ドローンによる遠景もこの鮮明な映像でくっきり見えます。
92年の青春の恋模様を振り返る時、それは乙坂の記憶の中の映像ですから、ぼんやりとしたノスタルジーな印象であるはずなのに鮮明に当時の記憶が蘇ります。現在の時間軸と過去の時間軸で演出が変わらないため、シーンの切り替えでどちらの時間軸か瞬間的には分かりません。
逆に言えば、これは乙坂にとって過去も現在も境界はなく、今でも当時の未咲との思い出の延長線上に生きているのだと感じました。本人も言うように、あれからずっと未咲に捉われていたのです。
彼女の姿を探し、彼女との思い出を小説に記した。結果として、彼女との思い出以外をテーマにした小説は一向に執筆できていないわけで。

途中、未咲に暴力を振るっていた元旦那のトヨエツに愚弄されて落ち込む乙坂でしたが、彼女に会えていたら確かに事態は変わっていたかもしれませんが、彼女に会えなかったとしても決して彼女の人生にとって乙坂は無関係ではありませんでした。
それを知った時から、ようやく乙坂の止まっていた時間も動き出したのではないでしょうか。

そんな乙坂に恋心を寄せていた未咲の妹の裕里が、漫画家の夫と結婚したのも面白いですし、それを庵野秀明が演じたのも最高です。結局、裕里は表現者に惹かれたんだなぁと。あぁ、旦那との結婚も乙坂への恋心を引きずったかな、などと考えたりもしました。

あと、「仲多賀井高校」はわざとですか。実在してるんですか。文字だけならまだしも、セリフとして言われちゃうとギャグ漫画の学校みたいで違和感がありました。