クワン

ラストレターのクワンのレビュー・感想・評価

ラストレター(2020年製作の映画)
4.3
「パラサイト」の快挙の余韻が凄くて、このままだと「パラサイト」のことばかり考えてしまいそうなので、日本を代表する岩井俊二監督新作をレビューしようと思います。

でも、やはりその前に、やっぱりアカデミー賞授賞式の総括を先にさせて頂ければと、、、あまりに大きな衝撃だったからです。あの時、何が起こり、そして何を感じたのか、少し長いですがお許しください。

昨日のアカデミー賞授賞式の興奮が、今日もまだ映画界と映画ファンを包み込んでますね。

私は昨日、満を辞してWOWOWでアカデミー賞授賞式の模様をしっかり観ることができました。

そして「パラサイト 半地下の家族」がアカデミー賞作品賞、脚本賞、監督賞、国際長編映画賞含む4部門受賞という快挙を成し遂げました。傑作「殺人の追憶」で度肝を抜かれてから15年、ついにアジア映画の枠を突き破り途轍もない快挙を成し遂げたポン・ジュノ監督に心から敬意を評します。

私は取って欲しいとは思っていたものの、まさか作品賞までは難しいだろうと思っていたのですが、脚本賞、国際長編映画賞を取った後、監督賞をポン・ジュノ監督が取った時、これはもしやもしやと固唾を呑んで見守り、そしてジェーン・フォンダがoscar goes to、、、、 、、、、Parasite!!!と呼んで一斉に歓声が起こった時、鳥肌がバーっと立ち、涙まで出て、一緒に観ていた奥さんにちょっと引かれてしまいました 笑

それからこの興奮を皆どう受け止めてるのかな、とTwitterなどを散見すると、確かに凄い!素晴らしい!と歓喜している日本映画ファンも沢山いるのですが、一方でそれ以上に「パラサイト」の歴史的快挙を目撃し、素直に喜ぶというより日本映画批判に転ずる論調が噴出しているのに、何だかここで一番先に言わなくても、、と正直複雑な気持ちになりました。

けれど、私はここでその批判に対する更なる批判を論じるつもりはありません。私は心から、日本映画は過去も現在も世界に稀に見る多様性に満ちた名作の宝庫であり、これから未来も益々可能性に満ちていると思っています。

ただ、ポン・ジュノ監督が凄すぎるということ。それはもう本当にそう思います。もう15年前の「殺人の追憶」で映画作家としての技量は世界のトップに君臨したのではと思うくらい衝撃を受け、私にとってその前後10年のNo.1作品となりましたが、その時、確か阪本順治監督がこんなことを言っていました。「悔しい、、黒澤明監督の孫が、日本でなく韓国に生まれた」これほど適切にポン・ジュノ監督の時代を超えた映画作家としての凄みを現す言葉を私は知りません。

確かに今の日本の映画産業には一石を投ずべき、話し合わないとならない論点が明確にあるかと思いますが、ただそれを一纏めに日本映画が遅れていると声高に言い始める方が多いことは極めて乱暴かつ哀しいなと。

私は映画が大好きで、洋画も邦画も大好きですが、今回初めて英語以外の言語かつアジア映画として「パラサイト 半地下の家族」が作品賞を取った時「日本映画に獲って欲しかった」と悔しさがこみ上げるかと思ったら、ただ猛烈に感動してしまいました。

それがアジア人としてなのか、100年近いアカデミー賞歴史の転換点を目撃したからなのか、ポン・ジュノ監督と素晴らしいクルーへの敬愛なのか、それともただ真に素晴らしい映画を創った時それが国境を越えて認められるという、映画人たちの映画芸術の美しさへのリスペクトに感動したのか、多分全てかと思うのですが、今回、私が特に感動した場面はポン・ジュノ監督が監督賞を受賞した時、こうスピーチを切り出したことです。「私が若かりし頃、映画を勉強していた時に深く心に刻まれた言葉がありました。それは“最も個人的なことが最もクリエイティブなことだ”です。これは、私たちの偉大なマーティン・スコセッシの言葉です」そして、スコセッシ監督の周囲から次々に人が立ち上がり、拍手喝采。私の涙腺は決壊しました 笑


最後にも素晴らしいシーンがありました。作品賞を授賞した「パラサイト 半地下の家族」のプロデューサーが授賞スピーチをした際、もう1人の方に移る時に、時間切れとばかりにマイクが切られ照明が落ち、カメラが発表者のジェーン・フォンダに切り替わった時に、トム・ハンクスやシャーリーズ・セロン、マーゴット・ロビーなどのスターたちが「Up!Up!Up!」と身振り大きくシャウトして、全体に広がり、そしてまた照明が灯り、改めてスピーチが始まったのです。そしてこの最後のスピーチもとても素敵なものでした。


この瞬間に私は今後の映画界のとてもワクワクするような兆しを肌で感じて、とても幸せな気分になりました。


WOWOWのゲストだった「孤狼の血」の白石監督もやや目を潤ませながら、興奮を押し殺した様子で「本当にいい物を創れば、届くということが分かった。早く帰って脚本を書きたい」と語った言葉も印象的でした。きっと様々な感情がこみ上げる中、地に足をつけて目の前のことに希望をもって全力に当たることしか、やることはないと決意を更に深くしたかのように、、私の勝手な深読みですが 笑


今は映画の現場から離れている私ですが、中で闘っている友人や先輩方が「いいものを創れば世界に届く」時代にいることを心の片隅に置きながらも、日々はそれすら考える暇も無く全力で映画製作に当たっている姿が目に浮かびます。


日々、話題に上がるNETFLIXの躍進とか、日本映画と韓国映画の違いとか様々な論点で語られていますが、そういったことを全てひっくるめて、これから映画界全体が更にエキサイティングに盛り上がることは間違いない。そんなことを改めて感じさせる、アカデミー賞授賞式での「パラサイト」ショックでした。


だから言いたいのです。素晴らしい偉業を称える時は、みんなで一緒に喜べるといいよねって 笑

ということで、こんな映画や映画界のあれやこれやを映画好きなフォロワーの皆さまと語らいたく、3月7日(土)に、銀座で映画を語らうカフェ会を開催したいと思ってます。

また、詳細は「ナイブズ・アウト」のレビューでご案内しますね。

そして、ようやく日本映画の誇り、岩井俊二監督の新作ラストレターのレビューです 笑

やっぱり岩井俊二監督の世界は素晴らしかった。エモいという言葉がきっと存在しなかった時代から、彼の世界は随一エモかった 笑 脚本も、音楽も、映像も、美術も一つ一つが美しく紡がれた岩井俊二120%の美しい世界観として融合していた。

役者も皆素晴らしかった。昨日はエルサ日本代表で美声を聴かせてくれた松たか子もヒロインらしからぬ、永遠の2番手ヒロイン像としてどこかコミカルに演じていて、うまいと思った。

福山雅治も良かった。他の男ならストーカー的な気持ち悪さが漂いそうだが、彼ならギリギリOKかと思える 笑 この作品は彼の心の旅が軸となっている、迷いと哀しみに満ちた入口から彼がどんな出口に辿り着くのか、それを丁寧に綴っていて、すっと感情移入できた。

そして、若いましゃ役の神木隆之介も良かった。何というか、凄く馴染んでいたと思う。

鮮烈な印象を残したのは「天気の子」でヒロインの声を演じていた森七菜だった。現代と過去のそれぞれの役柄を演技とは思えない天真爛漫さをスパークさせていていて、この作品の「青春映画」足る輝きを増しているのは彼女の存在が大きい。彼女が歌うカエルノウタも良かった。

そして、広瀬すずはもう本当に演技にブレが無い。そして彼女が真実に触れる想いを吐露する場面に思いっきり私は泣かされてしまった。ある意味、既に完成された女優さんとしての安心感さえある。

更に、後半に「Love Letter」の系譜を改めて感じさせる2人の登場で物語の厚みがぐっと膨らみ、もうそこからはぐーっと引っ張られたまま、最後まで世界観にのめり込んでしまった。

SNS全盛の時代に手紙が結ぶ奇跡の連鎖が実に巧妙に、しかし嫌味なくすっと世界に誘ってくれた岩井俊二監督がいかに日本において唯一無二の存在かということをつくづく味わった幸せな2時間。改めて日本映画の素晴らしさここにあり!といった快作を鑑賞できてとても幸せな気分だ。