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永遠の門 ゴッホの見た未来のslvのレビュー・感想・評価

4.0
これはいわゆる伝記的な映画とは少し違うと思う。

全体的に哲学的でアート性のある雰囲気で、わかりやすいドラマではないから、とっつきやすい作品とは言えないし退屈と感じる方も多いと思う。

映像表現もかなり独特だ。

全編通して、ゴッホの作品を象徴するかのような"黄色"の色彩が印象的な映像で、絵のように美しい場面もあった。

しかし、揺れ過ぎるカメラは苦手だったし、ゴッホの目線を表現している(?)と思われる部分は、画面の下半分くらいにぼかしたようなフィルターがかかっていて、ちょっと見づらい。

けっこうクセのある作品で、正直驚いた。

だけど、監督が『バスキア』や『潜水服は蝶の夢を見る』のジュリアン・シュナーベル監督と知って納得。
そして、この監督が元々は画家であったということも、この作品の独特な表現性やテーマに説得力を与えていたのだなぁと鑑賞後に改めて気付かされた。

伝記的にただゴッホの生涯を見せるのではなく、「なぜ、彼は絵を描き続けたのか?」という、ゴッホの生涯に於いての芸術というものの意味や、彼の、絵を描くことへの情熱の根元や本質に迫り、その新たな解釈や答えを見いだしたかった作品なのだと思う。

ゴッホの波乱に満ちた劇的な生涯は、いろんな有名なエピソードで広く知られていることと思う。

だけど、この作品ではゴッホとゴーギャンの関係性が思ったよりあっさりした描写にとどまっており、共同生活を経ての、あの衝撃的な別れに至るまでのエピソードがいまひとつ説得力に欠けていたのが残念ではある。

ゴッホが精神を病んだり狂人扱いをされたりという部分も、同じく描写不足で物足りない。

しかし、彼は天才なのか狂人なのか?という紙一重の危ういバランスと、並外れた才能と情熱を持つが故に、理解されることなく苦悩の人生を歩むしかなかった天才の生涯の哀しみを、ウィレム・デフォーが本当に見事に体現していて、観ていくうちになんだか凄く胸が苦しくなっていった。

ゴッホが
「未来の人々のために、神は私を画家にした――」
と語る場面、その言葉の全てが強く心に響いた。

もちろん実際のゴッホがそんなことを思っていたかはわからない。
単なる綺麗事とも言える解釈かもしれない。

だけど、生涯を掛けて、彼の情熱と才能が生み出した傑作の数々は、確かに未来の人々のために渾然と残り続けるための作品でもあったのだ。

そこに彼の偉大さや、他の画家との違い、芸術の真の意味を感じとることが出来たような気がして、じわじわと大きな感動が押し寄せてきた。

そして、新たな解釈として表現された悲劇的なゴッホの最期のエピソードにもまた胸を打たれ、ラストのゴーギャンの語りを聴いていたら静かに涙が零れ続けた。

しっかりと絵画を学んで挑んだという主役のウィレム・デフォーの渾身の演技・表現力の素晴らしさは勿論のこと、オスカー・アイザックの演じたイケメンなゴーギャンが格好良かったし、マッツ・ミケルセン、マチュー・アマルリック、エマニュエル・セニエもそれぞれの存在感が光っていてとても良かった。

あ、あとゴッホの有名な絵の中の人が登場するところは、なんか嬉しくてニヤリとしてしまった。
それと、冒頭でウィレム・デフォーとオスカー・アイザックがフランス語を話していたのも意外だった!元々話せるのかな…?
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