螢

永遠の門 ゴッホの見た未来の螢のレビュー・感想・評価

3.5
最も精力的だったけれど最も苦しんでいた最晩年のゴッホの悲愴な姿を、ゴッホ視点でまさに「追体験」する作品。

絵具を厚く塗り重ねた筆の跡がくっきりと残り、うねりと渦巻が特徴的なゴッホの作品群。それは、彼のほとばしる情熱と不安定な情緒の形の現れであって、人生そのものともいえる。

1888年、パリにおける画家たちの共同体を夢見て果たせず、南仏アルルに暮らしながら創作活動に打ち込んでいたフィンセント・ファン・ゴッホ。
彼がいくら情熱的に絵を描いても、当時としてはあまりに前衛的すぎる作風から、敬遠され、全く売れず、貧困に喘いでいる。そして、村人と諍いまで起こしてしまう。

彼は弟テオの立ち回りもあって、友人のゴーギャンと同居することになり、束の間の慰めを得るが、結局二人の中は拗れ、ゴーギャンはゴッホの元を去ろうとする。
精神に変調をきたしたゴッホは、ゴーギャンを引き止めるため、自らの左耳を切り落とし、人づてに彼に送ろうとするが…。

代表作「潜水服は蝶の夢を見る」でもそうだったのだけど、「追体験」を描かせたら実に見事な手腕を発揮するジュリアン・シュナーベル監督らしい特徴的な視点的構図と、光の捉え方、ゴッホ役のウィレム・デフォーのゴッホの自画像からそのまま抜け出たようなそっくりな姿と痛ましさを感じさせる演技の融合は見事。

宣伝ポスターにもなっている、ゴッホカラーともいえる黄色も目に鮮やかな畑らしき所で、内省に浸るかのように目を閉じて腕を広げて空を仰ぐゴッホを捉えたシーンは、光の加減の美しさも相まって、本当にうっとりしてしまった。

そして、作中のゴッホが考え、こだわっていた「己に課せられた神による使命」。
生存中は不遇を囲っていたけれど、現代においてゴッホ展が開かれれば世界各国たくさんの来場者が訪れることを思えば、彼は「使命」を見事に果たしたのかもしれない。

ただ、ラストは、なんだか唐突で取ってつけたような感じがして、なんだか置いてきぼりをくらったような気分になってしまった。うーん。もっと伏線的な要素とか、効果とか盛り込めなかったのか。

とはいえ、久々にシュナーベルの技法を堪能し、改めて「潜水服は蝶の夢を見る」を見直したくなった。
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