小松屋たから

永遠の門 ゴッホの見た未来の小松屋たからのレビュー・感想・評価

3.6
ゴッホの心象風景を、あくまで現代の作り手の想像で描いた実験的要素の強い作品。手持ち中心のカメラワークが独特。観念的な映像は美しく、世評通り演技も素晴らしい。天才か狂人か、それを決めるのは周囲の人間の都合でしかなく、「描くことしかできない人間」が生きていくにはこの世界は窮屈過ぎるんだな、ということを思わされる。

多くの方がご指摘されているように、この映画は、本来、日本で言えばいわゆる「ミニシアター系」、「アート系」作品。あるレベル以上の美術の知見がある方がきっと本当の面白さを解ることのできる映画であることは間違いなく、TVCF量の多さなどから大衆向けの「伝記映画」だと思い、エンタメ性を期待してシネコンに観に行ってしまった自分は、なんだか、置いてけぼりにされた感はある。

そういう作品と初めから知っていて、その覚悟でBunkamuraル・シネマや、恵比寿ガーデンシネマ、UPLINK吉祥寺などの公開で観たなら、そんなことは無かった!と言いたいところだけれど、それは、まあ、事前情報収集を怠った自分の責任、感受性の低さゆえなので、仕方がない(笑)。

でも、確かに絵画の価値や歴史に疎い自分であっても、ゴッホについて、「生きている間は報われなかった不遇の天才」「耳を自ら切り落とした狂気を秘めた男」であること、「ひまわり」や「自画像」といった作品は知っている。

「アートのお値段」という現代美術の値付けの不可解さを取り扱った映画も最近公開されていたが、結局、創作芸術には、絶対評価の基準など無いから、作家個人の生き様や作品が生まれた経緯、人手に渡ってきた歴史によってどんどん付加価値が加えられていくのだろう。それが、映画への興味喚起にも繋がって、自分のような美術素人も劇場に足を運んだわけだ。

と、考えれば、この規模で公開できると踏んだ配給会社の判断も決して無謀とは言えず、それが吉と出るのか凶と出るのか、これまた余計なお世話なんだけれども、興行の最終評価を知りたいなと思った。