平野レミゼラブル

ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

3.8
THE世界名作劇場!!
原作は未読なんですが、それでも伝わってくる牧歌的で伸びやかな家族ドラマ。それが、美男美女勢揃い、絢爛豪華なドレスや当時の調度品の造形を完全再現して、純粋に映像だけで楽しめるのが実にリッチです。
もちろんジョー、メグ、ベス、エイミーといったかしまし四姉妹の織り成す日常風景にもほっこり。特にローレンス翁とベスの再生と喪失の関係性にはホロッとされる暖かさと寂しさが同居していて、自然と涙が溢れてしまう。
お話自体はありふれている素朴さなんですけど、その素朴さをこそ愛でようというお隣の少年ローリーのような心持ちで鑑賞してしまいます。
 
wiki先生の情報頼りに見てみると本作は若草物語~続・若草物語までを映像化したものなんですね。原作でも主役格である次女ジョーを中心に、成長した『続』の立ち位置から少女時代を回想していく作り。
少女の頃に抱いた野心が大人になって叶えられるとは限らない。大人になってから少女時代の選択を後悔するかもしれない。こうした現実を描きながらも、皆が家族の元へ帰り見つめ直して折り合いをつけていく姿が自然です。
 
リトル・ウィメン及びローリーの少女・少年時代と大人時代を同じ役者が演じるのは違和感があるのではと思ったんですが(言うてそんなに時は経ってないんですかね)、演じ分けが巧いので無問題。特にシャラメのローリー、いたずらっぽい少年時代から奔放放蕩息子へのジョブチェンジが自然すぎる。ベスだけやたら幼い容姿だから末っ子と勘違いしてたけれど(実際はフローレンス・ピュー(24)演じるエイミーが末っ子。ベスは三女)演じるエリザ・スカンレンが21歳なのは驚きだったり。
 
前述の通り、大人時代から少女時代を回想する構成で既存の映像作品とも差別化を図っているそうですが、本作で一番独特な部分はラストで分岐する展開でしょう。正に多様性を謳う現代版アップデートとも言うべき展開で、当時の価値観とそれに対抗しようとした原作者のオルコット及びジョーの気鋭の精神を戦わせるのがユニークかつスマートです。
分岐したルートはそれぞれ「喪失と穴埋め」、「短気と妥協」と、どちらにしても責任持った終わり方にするというのが作家魂が垣間見えて良いです。この辺りと邦題は結構密接に絡んでいて色々語りたいのですが、オチ部分の完全なネタバレになるのでコメント欄で。
 
ちなみにこれは完全余談ですが、本作観る前に『ミッドサマー』の試写会にお呼ばれしまして、さらにそこでフローレンス・ピューが『ミッドサマー』のあの衝撃的なラストの撮影直後にこちらの撮影現場に向かったという逸話まで聞いてしまいまして……鑑賞に悪影響を及ぼすのではないかと心配をしましたが、最悪の形で的中してしまいました……もう駄目。彼女を真っ直ぐな目で見られない…!彼女が精神的に追い詰められる描写があるたびに「あっめっちゃ泣き叫びそう…」となり、「ティモシー・シャラメ、〇〇に入れられて〇〇〇〇〇されそう」と危惧し、あろうことか花冠まで被る始末。……アリ・アスター、アンタなんてことしてくれたんだ…!本作の他に『ミッドサマー』を観る予定のある人は絶対に『若草物語』→『ミッドサマー』の順で観てください。
 
オススメ!!