はる

ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語のはるのレビュー・感想・評価

4.7
映画館上映が再開して最初に観た今作。
原作は未読でかつてテレビで放送されたアニメ『愛の若草物語』や1994年版の映画のイメージが何となく残っている。四姉妹の個性を前提として知っていた方が入りやすい仕上がりとは思うが、そうでなくとも単体で楽しめるようになっている。そのために冒頭から中盤までテンポよく進んで行く、というか結構早い。それはちょっとした驚きであり、いつまで続くのかと思いながら、それをまた楽しんでいた。
そうした作品は珍しいわけでもないが、若草物語作品へのイメージとは違う。時制を交差させながら四姉妹の繋がりを過不足なく描きつつ、そうしたこだわりのある作りにしているから、あのラストの味わいがあったのだと感じた。

ではネタバレ。
とにかく冒頭からのテンポの良さに驚いた。そして現在と過去のシーンが入れ替わっていくが時に上手く繋がっているのでわかりにくいところもあったと思う。ただし色調で区別されていることが早めにわかるので問題はない。そうしておいてハイテンポの流れで、過去の四姉妹がハイテンションのかしましい会話のシーンに繋がったときにちょっと鳥肌がたった。それはマーチ家の日常であるはずだが、そうしたカオスとも言えそうな喧騒が実は冒頭から続いていたのかと。そんな風に思い至ったところで「これは傑作」だと早くも確定する。
全体を通して思い返せば、ハイテンポからやや落ち着き始めて、すれ違いやボタンの掛け違い、喪失があり、そして終盤にかけてセリフも減っていく。時制は行ったり来たりしながらも、その構成は人生の流れの時系列に沿ったものだ。そう考えたりもできる。「若草物語」をこのようにして観られていることに感謝していた。そしてこの微妙な邦題も意外と良いのではと思っている。

四姉妹はみな良かったのだけど、ベスに注目したい。演じたエリザ・スカンレンはこの中で最年少の21歳。ベスは母親マーミーの影響をもっとも受け継いだように思う。そのことで猩紅熱になってしまうのは悲しいことだったが彼女が示したものは周囲に浸透したはずだ。ベスとローレンス氏との関係性などはマーチ家にとって大いに影響したわけで、ジョーの学園経営につながる。
アレクサンドル・デスプラによるサントラに入っている曲はピアノが印象的で、その意味を考えるとそれだけで泣きそうになる。本国のサントラジャケットやパンフレットにも使われたショットでは1人だけベスが座っている。鑑賞後ではこうしたことでもグッときてしまうのだから困ったものだ。
ベスがローレンス家で弾いた曲が「悲愴」というのもね‥。

ドラマはベスに託され、エイミーはジェンダーを託された。もちろん彼女の物語もドラマティックではあるが、当時の女性の生き方に抗いながらも「才能」を発揮できなかったことで挫折もする。あのローリーとの対話で彼女が語った「結婚と経済」のくだりはメリル・ストリープの発案ということで、現代性を強く感じさせるものになった。

そして主役であるジョーに託されたのはまさにその現代との橋渡しだろう。とは言え「若草物語」への強い愛を感じさせる今作では過剰にフェミニズムなどの要素は入っていない。もちろん見ようによっては違うはずだが。だからこそラストの改変が重要になってくる。あの男性編集者とのやりとりで、古い結婚観、因習、偏見、性差別のくだらなさを提示して、彼女は著作権という名の「権利」を手にする。うーん、なんて良く出来た作品なんだ。
メリル・ストリープとシアーシャ・ローナンの対面シーンなどは継承を感じさせる楽しいものだった。

こうなるとメグが割りを食うのは仕方ないのか。とは言えあのエマ・ワトソンはとても良かった。ちなみに元々はエマ・ストーンが候補だったそうだ。
話は逸れるがエマ・ストーンが『ラ・ラ・ランド』で演じたミアは、当初エマ・ワトソンで企画されていたがワトソンは『美女と野獣』を選ぶ。その結果としてストーンはオスカーを獲得することになり、今回は『女王陛下のお気に入り』を優先させて助演女優賞ノミネート。エマ・ワトソンは賞レースに関心があるとも思えないけれど、ちょっと面白い巡り合わせである。ただ俳優として競合するような2人ではないという印象なので不思議な気もする。
エマ・ワトソンが読書家でフェミニズム活動家でもあること、それがこの配役に影響しているのかどうかはともかく、あの4人姉妹の長女として落ち着きと華やかさ、そして虚栄心や弱さも見せていて良かった。そしてあまりにも若くして成功した彼女が、あのように演じられるのかと素直に思う。
ごく最近ではケリングというファッション業界大手の取締役に就いたというから、なんとも凄い。

ともあれ、グレタ・ガーウィグという女性監督がそれなりの予算でこれほどの作品を世に送り、現時点で2億ドルを超える興収を上げる大成功を収めたことは素晴らしいことだと思う。さて次は、と思わせてくれる作家の1人になった。
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