マヒロ

ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語のマヒロのレビュー・感想・評価

5.0
マーチ家の四姉妹である女優志望で長女のメグ(エマ・ワトソン)、作家を夢見る次女のジョー(シアーシャ・ローナン)、ピアノが得意な三女のベス(エリザ・スカンレン)、絵描きになりたい四女のエイミー(フローレンス・ピュー)達の、在りし日の故郷での暮らしと大人になった後の生活を描いたお話。……『若草物語』のあらすじをわざわざ書くまでもない気もするが、一応。

何回も映画化されている超有名作品ではあるものの、個人的には初鑑賞。原作は相当古い作品だけど、時系列の交差やスピーディーな編集など、あくまで当時の空気感は保ったまま現代風に翻案されている感じ。
原作の段階でどうだったのかは分からないが、結婚こそが女性の幸せであり人生の目標だ……という当時の風潮(今も?)に疑問を呈しつつ、だからと言って夢を諦めて結婚するという選択肢が間違っているというわけでもない、登場人物達が選んだ人生をどれも等しく肯定する優しい目線が素敵だった。仕事に打ち込むも家庭を持つも性別問わずにその人の勝手だし、「これはこうあるべきだ」と外野から口出して邪魔する人が本当に嫌なので、こういうメッセージを真っ直ぐ発信してくれる作品はそれだけで好きになれる。
主人公であるジョーのキャラクターには『若草物語』の原作者であるオルコットに加えて監督のグレタ・ガーウィグの魂も乗り移っているかのようで、女性が芸術に生きるということへの周囲のなんとも言えない空気感と戦う反骨の文学少女というキャラクター性は、監督の前作『レディ・バード』で同じくシアーシャ・ローナンが演じていた主人公のキャラを更にブラッシュアップさせたような感じがした。1800年代にそのままグレタ・ガーウィグが殴り込んだみたいな違和感を覚える場面もなくはなかったが、そういう映画に一本筋を通すためのウソなら積極的に許容していきたいのであんまり気にはならなかった。

過去と現在の描写が交互に描かれる手法は、ただ楽しい時間を享受していただけだった幸せな頃と厳しい現実に目を向けなくてはいけなくなった今とのギャップを対比させながら、どのような選択を経て大人になったのか、過去の出来事が人生においてどういう影響を与えているのか…みたいなところを分かりやすく描写していて、ただ気を衒ったものではない効果的なやり方だと思った。特に、マーチ家の四姉妹にある決定的な悲劇が起こるシーンでは、過去パートとの映像や演出の反復によりその悲劇性が強調されていて、その巧さに舌を巻くとともにだいぶショックを受ける場面で印象深い。

過去は暖色系・現在は寒色系でまとめられた色設計は、登場人物らの環境の違いを分かりやすく表しているし、目まぐるしく場面が変わるので視覚的にパッとどちらの時代か分かるのは地味に助かった。映像面でいうと、浜辺で語らうジョーとベスを超ローアングルで撮影した場面が、この世の彼岸のような異様な雰囲気を湛えておりかなりインパクトが強かった。

『レディ・バード』が結構好きだったものの、古典文学の再映画化というところで何となく自分の中で勝手にハードルを下げてしまってた所があったんだけど、力強いメッセージ性や、人間臭いキャラクター達による胸がいっぱいになるような素晴らしいドラマの数々に打ちのめされるような傑作だった。自粛明け四ヶ月ぶりくらいの映画というのも多少なりともこの感動に影響しているような気もするが。

(2020.81)[8]
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