湯林檎

ディリリとパリの時間旅行の湯林檎のレビュー・感想・評価

ディリリとパリの時間旅行(2018年製作の映画)
5.0
とても美しく風刺に富んだ作品であり個人的に最高な映画の1つ。
こんなにも自分好みの映画がよくあったなと。
※そしてついにパリに旅行に行けました😆🇫🇷

まず、アニメーションの登場人物と実際にパリで撮影した写真との融合性が素晴らしい。画風は平面的でありながらも実在の人物の顔の特徴をよく捉えており、ぱっと見てすぐに誰か判別することができた。
何より自身はベル・エポックのフランス音楽と美術(とは言ってもこの時代の画家よりはカラヴァッジョやレンブラントなどバロック時代の画家の方が好きなのだが笑)が大好きなので個人的にはこの映画は至福のひと時を味わえる最高の作品となった。

この映画において重要な役割を果たす"男性支配団"は現在でも課題となっている女性差別問題を具現化したものだろうが、ハリウッドでも度々話題になるこの問題をフランスのアニメ映画でも取り上げていて興味深かった。それにしても男達の目つきが中々気味悪かったw
恐らく今よりも女性差別が激しかったであろう19世紀末の世界観に現在の社会問題を取り入れることによって女性たちはいつの時代も自立して世間で活躍する権利があるのだというメッセージ性が込められているのだと感じとった。同時にディリリを含めた有色人種のことについても触れていて単なる子供向けアニメーションに留まらない社会的なメッセージもあって良かった。

この作品に少しだけ登場する作曲家のクロード・ドビュッシーは私にとって非常に思い入れ深い作曲家であり最も好きなクラシック音楽の作曲家の1人である。
実際の生前の彼は気難しい性格で大変女癖の悪い人だったので伝記映画にするのは色々な意味でハードルが高いと思う。(何にせよ若い頃から不倫と浮気の常習犯で婚約者と結婚相手がそれぞれ彼の不倫によって自殺未遂をしているので💦普通に考えたら男の悪いところを凝縮したような人w)しかし、こうして映画を通して彼と出会えることは大きな喜びだった。今作で主要キャラクターとして登場するエンマ・カルヴェが少しだけ歌う「ペレアスとメリザンド」(劇中でカルヴェが歌っていたのは第3幕第1場より「私は日曜の正午の生まれ」)も大好きな作品なので私にとってはとても嬉しかった。ドビュッシー以外にもサティやラヴェル(台詞はなかったが)が出てきてまるで本当にベル・エポック時代のサロンにいるかのような気分で近代フランス音楽が大好きな私にはたまらない気持ちになった。しかもサティは「グノシエンヌ」第1番を弾いていて良き!笑

少し脱線するが、この映画を鑑賞して他の私のお気に入りの映画との繋がりとそれについての個人の見解を書かせて頂く。
1つ目は「アマデウス」。作中でアマデウスことヴォルフガング・アマデウス ・モーツァルトに嫉妬をする音楽家アントニオ・サリエリは史実では音楽教師として名高く、ベートーヴェンやシューベルト、リストと言った歴史上重要な音楽家たちを育てた。そしてサリエリの指導を受けた1人でありサリエリと良好な師弟子関係を築いていたとされるベートーヴェンは音楽の在り方の変遷、音楽家の独立に貢献した。こうして皆が知るように音楽史上最も高名な作曲家の1人となった。そのため、彼に影響された後世の音楽家は数知れず。
そして2つ目は「ルートヴィヒ」(1972年のと2012年のと両方)。この映画の主人公であるバイエルン国王のルートヴィヒ2世を魅了した作曲家ワーグナーは先程名前を出したベートーヴェンの交響曲を15歳の時に聴いて深く感銘を受けて作曲家を志し、ちょっと名前を出したリストは彼にとっては若い頃の恩師であり後に妻となるコジマはリストの娘である。映画で描かれるようにワーグナーはルートヴィヒ2世の援護と支援を受けてバイロイト祝祭劇場を作り楽劇というジャンルの第一人者となってロマン派歌劇の頂点に立ちその後の音楽界に大きな影響を与えた。また、リストは交響詩の生みの親であり、ワーグナーが亡命して生活に苦しい時に援助もしてくれた。そう、リストがいなければワーグナーは作曲家として大成しなかった可能性もあるのだ。
そして今作でもエンマ・カルヴェがとあるシーンでワーグナーの名前をちょろっと口にしており、この時代既に偉大な作曲家として認知されていることが分かる。そして始めの方で私が1番が最も好きな作曲家であると公言したドビュッシーも若い頃はワグネリアンだった。※その後ドビュッシーは紆余曲折してアンチワーグナーへと変わっていき、今作で歌われている「ペレアス〜」はまさにワーグナーへのアンチテーゼだ。 
そして作中そのドビュッシーがカルヴェがペレアスの練習していたオペラ座正面にはにはモーツァルト、ベートーヴェン、バッハ、ハイドンの銅像があり更に室内にはサリエリ、ワーグナーの銅像があるのだ。
ドビュッシーとカルヴェがオペラ座の地下にいた理由だが、自分の考えではクラシック音楽は長い歴史の中で多くの音楽家が伝統と革新を重ねて今に至っているということを伝えたかったのではないかと思う。

そう思うと映画自体は特に何も関連性はないが作品の背景となった史実に注目すると共通点が見えてきて1つの歴史絵巻のように繋がっていて面白味がある。
今作に登場したロートレックやピカソ、モネと言った画家たちや彼らの作品、そして作中の随所に登場するパリの建造物や芸術品もそこに忽然と現れたものではなく人間達の歴史によって生み出された産物であることには変わりない(美術史は詳しくないのでここでは省かせてもらう)。この映画を観て純粋に良い映画だと思ったのと同時に芸術の尊さを改めて実感した。
これは科学や文学のも一緒だ。今作には多くの文化人が登場するがどの人も今私達が生きている現代の世の中を形成していく上で重要な発見や発明、芸術的産物を生み出した。
以上のようなことからしてこの作品は国の歴史が長く芸術大国でありアニメ産業も盛んであるフランスだからこそ作ることができたアニメーション作品であると強く感じた。
そして、この作品を考え出し生み出したミッシェル・オスロ監督とその他制作スタッフに感謝の言葉を述べたいくらい素晴らしかった。

細かいストーリーに関しては少々突っ込みどころがあるが、映画ましてやアニメなので突っ込んでも仕方ないだろうと思えた。
強いて言うなら映画冒頭のオレルとディリリの出会いのシーンが普通に考えたら変質者に見えなくもないがw

久々に自分好みの映画と出会えてとても嬉しかった。

P.S. 今作でエンマ・カルヴェの声優及び歌唱を務めたナタリー・デセイのドビュッシーの声楽曲のアルバム「Clair de lune」のリンク先をアップしました。https://twitter.com/yuringo00001/status/1273995524362735616?s=21
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