鋼鉄隊長

恐怖の報酬 オリジナル完全版の鋼鉄隊長のレビュー・感想・評価

4.0
第七藝術劇場にて鑑賞。

【あらすじ】
南米ポルベニールの油田にて爆発事故発生。石油会社は爆風消火を検討するも、倉庫にはわずかな振動で爆発するニトロしかない。そこで多額の報酬を条件に、4人の犯罪者を運び屋にする…。

 サスペンスといったら間違いなくこの映画! 原作は1953年に公開されたフランス映画『Le Salaire de la peur』で、今回はそのリメイク。121分の「オリジナル完全版」は、公開から40年近く経った今年に初めて日本で上映された。監督のウィリアム・フリードキンといえば『エクソシスト』(1973)を思い浮かべる人も多いだろうが、僕は断然『12人の怒れる男/評決の行方』(1997)。この監督はリメイクがとても上手い!!
 リメイクにあたって強調されたのはサスペンス要素。「恐怖の報酬」とは53年版で登場人物が語る「2,000ドルは恐怖に対する報酬でもある」との台詞に由来しているが、今回の作品では恐怖への報酬を観客が受け取ることとなる。金のために命をなげうって挑む男たちとは異なり、我々観客はハラハラドキドキして見守るだけ。だからこそ障害物を乗り越えた時のカタルシスは凄まじい。まさしくコレは恐怖の報酬だ。
 落語家の桂枝雀は笑いが起こる原理を、緊張と緩和のバランスに基づくと分析した。この考えはサスペンスにも当てはまり、この映画での塩梅は絶妙である。特に劇中屈指の名場面である吊り橋の場面。トラックが前進する度にカメラは引いて橋全体を映す。橋の揺れが(若干ではあるが)安定するまでを見せつけているのだ。ここで生まれるのはわずかな緩和。その後再びトラックが進みだせば、橋板が抜け、漂流物が直撃するといった緊張が訪れる。手に汗握る名場面だ。
 こうして考えると冗長に感じられる前半(トラック任務が始まるまで)も、映画全体の緩和を担っているのだろう。さらにその中にも交通事故などの緊張を表す場面を挿入し、物語のテンポをぐっと引き立てている。一瞬たりとも目が離せない。これぞサスペンスの醍醐味だ。
鋼鉄隊長

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