磔刑

恐怖の報酬 オリジナル完全版の磔刑のレビュー・感想・評価

3.2
「あの世への片道切符」

オリジナル版同様、設定はいい。設定だけで、作品の強い緊張感を生むし、それは観客の集中力を作品に向けるだけの力がある。物語のゴール、マクガフィン。それと相反する葛藤、対立、死を兼ね備えたニトロの存在が物語を牽引する強い推進力となっている。

しかしねぇ…いくらなんでも雰囲気に走り過ぎよ。必要以上、極端顕著にセリフが削られた演出は、主要人物の過酷な状況、危険な賭けに出るまでの動機をドラマティックに映し出してはいるが、あまりにもセリフが削られてて、見る者の想像に委ね過ぎていると思う。ロイ・シャイダー以外があそこに流れ着く経緯が今ひとつ掴めず、なんだかフワフワした印象を受け、その基盤の緩さはニトロが生む強い推進力とミスマッチに思える。その為、主人公(ニトロ)不在の中たっぷり1時間描かれる重くるしくも空虚な人間ドラマは退屈と言わざるを得ない。

セリフの少なさはニトロを運ぶスリリングなパートにも悪影響を及ぼしている。折角、二人一組なのだから、何かしらの問答や、価値観の共有、無駄話等で人物関係に緊張感を生む、あるいは強い一体感を生じさせる等のドラマ運び出しが出来たはずだ。しかし、それもやたらと無口な面々によって叶わず、全てニトロ頼みの演出だなと落胆させられた。
どいつもこいつも判で押したように無口で、一人や二人ぐらい、陽気なやつや、楽天家、軽口を叩くと言った人物を用意しても良かったんじゃないか?4人共職人気質でキャラ被りしてるし、それが原因で物語に起伏が生じ難くなってしまっている。

最大の難関である大木により行く手を阻まれる様子も、見てる側としては「いや、ニトロ早よ使わんかい😅」って思ってしまったね。まぁ、メタ的な視点としては使う展開は容易に想像できるのだが、矢鱈と絶望パートが長くてね。見てる側とキャラクターとの思考の乖離が大きくてイライラさせられた。
その後のピタゴラ爆破装置も作るのは良いとしても、何をどうするのかぐらい説明ぐらいせんかいと。何であんな精巧な装置を作れるのかとか、誰がニトロを設置し、袋に穴を開ける最も危険な役割を果たすのか。そのやりとりだけで、物語に別角度から緊張を生めるのに、まーた黙々と作業するから、ドラマに摩擦を生まず、逆に平坦な印象を受けてしまう。みんな疲れてんのは分かるけど、映画なんやから頑張って盛り上げてや…😓

その反面、その後のサブメンバーの唐突な死は人物の過剰なまでの無口が上手く作用している。要するにに油断が招いたのだ。
最大の危機を乗り越え、緊張の糸が緩み、まるで自分が危機的状況にいないと錯覚するような談笑。それだけで余りに唐突過ぎる死に説得力を生んでる。まぁ、ここのシーンってオリジナル版のオチをそのまま拝借した感あるけどね。
て言うか、そもそも物語に極度の緊張感を生んでたり、機転で突破したりの見せ場作ってるのってロイ・シャイダー側じゃなくて、サブメンバーの方が多いのはどうかと思うぞ。ロイ・シャイダーはカッコいいけど、役柄には全然魅力感じないわ。だって全然魅せ場ないんやもん😅
それにラストのカタルシスの無さよ…😰オリジナル版って全然好きな作品じゃないけど、ラストの突飛さ、ちゃぶ台ひっくり返したようなぶっ飛んだバッドエンドは映画界屈指の名シーンで、あれだけで映画界に名を刻めるレベル。前述の通り、そのオチを別で使い、今作オリジナルのオチを用意した割にはオリジナル版には到底及ばない出来で、その時点でリメイクとしては失敗していると言える。

それでも橋を渡るシーンは控えめに言っても最高よ✌️現代だったらVFX増し増しで用意に作れるシーンだが、この時代に一体どうやって作ったんや!?って思える臨場感で、思わず手に汗握る😱😱😱
同監督の『フレンチ・コネクション』は私的には映画界最高のカーチェイスが観れる作品だ。今作は上記作の圧倒的疾走感とは真逆。“死”を起こさぬようにゆっくり横切るような。まるで時間が止まり、死が永遠に自分側で吐息を吐くような身の毛もよだつような恐怖感。『フレンチ・コネクション』の直球勝負のカーチェイス、それとは真反対の演出すら完璧に手がける監督のセンスには脱帽しかない。

流石に映像技術の向上の面はオリジナル版を凌駕してるし、作家性で差別化を図るのも理解出来る。しかし、橋の場面と、その半ば空回りした心意気以外はオリジナル版に敗北している何とも惜しい一作である。
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