回想シーンでご飯3杯いける

37セカンズの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

37セカンズ(2019年製作の映画)
4.2
⽣まれた時にわずか37秒間呼吸が⽌まっていた事が原因で、⼿⾜が⾃由に動かない脳性⿇痺となった女性の物語。漫画のゴーストライターとして才能を発揮するも、表舞台に出ることが許されない葛藤。そしてシングルマザーである母親の過保護等と距離を置くために、彼女の冒険が始まる。

自らも脳性麻痺の障害を持つ佳山明が演じる主人公のピュアな演技も良いが、彼女を歓迎して受け止める夜の世界の描き方がとても素晴らしい。風俗嬢や女装家(オネエ)達が、無敵のポジティブ・パワーで主人公の冒険を手助けする様子を見て、世の中捨てたものではないと感じる。マイノリティ同士が立場を超えて共鳴する描写は、ヨーロッパ等の映画で比較的良く取り入れられるものの、日本映画では非常に珍しいと思う。挿入されるCHAIの音楽も、作品のポジティブな空気と見事に共鳴している。

「パラサイト」がオスカーを獲得した日に、たまたま席を取っていたのがこの作品だったのは、僕にとって象徴的な出来事となった。既にベルリン音楽祭での受賞等、海外からの評価も高い本作。漫画の映画化やシリーズ物ばかりで、島国特有の身内ノリが目立つ日本映画の中で、もし国境を越えて人を魅了する作品があるとすれば、本作のような人間の根源的な力を描いた作品なのだと思う。

監督は本作が長編デュー作。主演女優もデビュー作。良い意味で日本の業界に染まっていない2人だからこそ実現できた作品と言えるかもしれない。いかにもNetflixっぽいと思っていたら、どうやら日本以外の国ではNetflixオリジナル作品として公開されるそうで、これから世界中の人達に観てもらえると思うと、とても嬉しい気持ちになる。