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37セカンズの教授のレビュー・感想・評価

37セカンズ(2019年製作の映画)
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イ・チャンドン監督の「オアシス」と似ていると言えば似ているが、似ているのが前半だけで、その分、前半と後半で感想がガラリと変わる。

結論として後半の物語の失速が物凄く唖然としてしまった。描いているテーマも内容もまったく別の映画のように変わってしまう。

前半で描かれる「障がい」を抱えた生活。特に「性」の問題を軸にグイグイと踏み込んでいく。冒頭の入浴シーンからその気概は強く感じる。
脳性麻痺の影響から来る生活。
できることとできないことを全て引っ括められ「できない」と決め付けられること。
そのもどかしさを丁寧に描いていると思うし、そこから搾取されていることも、抑圧されていることも頷ける。

主人公のユマの中で目覚めていく「性」と絵を描くこと、漫画を描くということの連なりも見応えがあって面白いしその中でしっかりと「体験」すること、それを映すという映画的表現に対してしっかりと向き合っていて好感触だった。

しかし後半。「父親」の話になってからはすべての物語が瓦解してしまう。そもそもこの映画で何を表現したかったのか?あるいは「わかりやすい良い話」に決着しなければという意識が働いたのか、描写は散漫になり、リアリティラインが崩壊していく。
生活費を渡してくれる渡辺真紀子の存在や行動はまだ理解できるとして、あのトシ君(大東駿介)の「善意」の不透明さをそのままに、ラストの展開になだれ込むのは頭の中に疑問符だらけで集中できない。
ラスト近くの和解のシーンも、描写で工夫できることは多いにも関わらず差し向かいで抱き合って泣く、というベタな流れ。
板谷由夏演じる編集者のキャラクターもよくわからず、何よりサヤカ(萩原みのり)は感じの悪いまま消息不明だし、尾美としのりのミスリードも気が効いてない。
何よりひどいのはタイトルの意味を、唐突にセリフで説明してしまうところ。
シーンの必然性も、段取りも物語にはまったく関連のないところで、話す相手もトシ君でいいのか?

何より、とにかく映像ルックが「ハリウッドっぽい」ものを目指しているかのようで題材にも何も合っていないので才気は感じても、やはりダサいと感じてしまう。
個人的には冒頭のテーマで、彼女なりの恋愛や何より、彼女にしか描けない「エロ漫画」を描く物語の方こそ観たかった。
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