カツマ

37セカンズのカツマのレビュー・感想・評価

37セカンズ(2019年製作の映画)
4.2
こみ上げる想いよ、切に。羽ばたける時間はそこに。少しだけ低い視線から彼女はそっと飛んでいく。もう一人ではない、広い風に、求めていた温もりに、宇宙人が見ている空に、全てに包まれながら飛んでいく。それでも生きて行けるから、前を向いていれるから。誰かの手を取り、照らす未来に笑みを向けた。

今作は劇場公開から短いスパンで早くも配信された作品であり、日本を舞台にした日米合作映画である。監督は日本から世界に飛び出す新鋭クリエイターの急先鋒、HIKARI。主題歌にも世界に羽ばたくロックバンド、CHAIを起用するなど、ワールドワイドなクリエイター、アーティストを揃えてきている。それでも圧巻に尽きるのは自身も障害を持つ主演の佳山明の熱演だろう。まるでその姿はリアルそのもの。家族との葛藤、思春期との節操、そして37秒の意味。ハンデを持つ彼女が人生を開放していく、綺麗事とは一線を画した生々しいパワーを感じさせてくれる作品だった。

〜あらすじ〜

貴田ユマは生まれた時に37秒間息をしていなかったことが原因で脳性麻痺となり、23歳となった今まで身体に障害を抱えながら生きてきた。過保護な母親との二人暮らしで、仕事は友人でもあるYouTuber兼漫画家サヤカのゴーストライター。それでも彼女には自分の作品を世に出したいという想いがあり、出版社に原稿を持ち込むも、サヤカの作品との類似性を指摘される始末でデビューには程遠かった。
そんな折、セクシー系の漫画雑誌に持ち込みに行ったユマ。だが、女性編集者から経験値の少なさを指摘され、失意の彼女は夜の街を彷徨った。
ユマは経験を得るため無茶な行動に出るもそれも空回り。それでもその際に出会った舞という女性との邂逅から、彼女の人生には少しずつ新たな世界がもたらされていって・・。

〜見どころと感想〜

もがき苦しむユマ。そんな彼女を支えようと過保護を助長する母親。負のスパイラルが循環しきった頃に訪れた、一人の女性の巣立ちを描いたような作品だった。部屋と職場の往復ばかりだったユマの世界が少しずつ広がっていき、いつしか海と空をも越えていく。生きていくために必要な出会い。その出会った人たちから背中を押され、確かな一歩を踏み出すための勇気。この作品はユマの自立、そして一人の女性の成長物語を描きたかったのだろうと思った。

ユマ役の佳山明、そして母親役の神野三鈴による母と子による演技のシーンはじんわりと重みを増していき、ラストの光射すクライマックスへと繋がっていく。大東俊介、板谷由夏など、出演作品の多い俳優陣が脇からしっかりと手を差し入れ、この物語の手足となることも忘れていなかった。

いきなりユマの入浴シーンから始まることから予見されたが、今作は日本映画にありがちな過剰な装飾と大袈裟な情緒を配しており、全てにおいて剥き出しである。だからこそ、ユマの行動の一つ一つ、言葉の一つ一つが重く、切実にのしかかってくる。誰の背中にも生えている翼はもちろん彼女の背中にもあって、だからこそ、いざ大空に羽ばたいた時の景色は雄大でこんなにも美しかった。

〜あとがき〜

Netflixが劇場公開からほどなくしてすぐに配信。おかげでほぼ新作のようなタイミングで観ることができた作品です。難しいテーマを見事に描き切り、HIKARI監督の将来にも明るい光が射したかのよう。実際に障害を持つ人をキャストに使う、というリアルな描写が今作の節操感を高めていましたね。

日本映画はあまり観ないかな、という方にもこの作品はオススメ。海外基準の日本映画が世界中に発信されたことにも嬉しくなりましたね。
カツマ

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