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ブルー・マインドのhorahukiのレビュー・感想・評価

ブルー・マインド(2017年製作の映画)
3.9
『RAW』とか『テルマ』とか『ゆれる人魚』とか、今年は変容する女性を描いたホラー作品が多いですね。本作もその系統で、それらに負けず劣らずな良い作品でした。

過去にも人狼への変容を描いた『ジンジャースナップス』だったり、虫への変容を描いた『THE BITE』(これは若干趣旨ずれるけど…)だったり女性変容ホラーは多くあったわけですが、今年は自身のアイデンティティを獲得する=成長と捉えるものが多い印象。実際に本作もそうだし、『RAW』も『テルマ』もそちら方面。ただその2作は外見的に何か変化があるわけではないですけど…。

本作の主人公が何に変容するんかはネタバレになっちゃうので伏せますが、ジャケの雰囲気とタイトルから大体わかっちゃいますよね(笑)

引っ越し先という新しい環境。友達もいないし、知り合いすらいない。派手な生活を送るカースト最上位の女子集団に対抗し突っかかりつつも、次第に仲良くなっていく主人公。彼女たちと付き合ううちに、酒、ドラッグ、男等、未知のものへと惹かれていく。退廃的な青春。そして初潮とともに訪れる身体的変容と湧き上がる異質な衝動。

前述した通り、本作は自身のアイデンティティの獲得=成長と捉えているのですが、酒やドラッグ、男等、人間としての快楽や痛みという通常であればそれらを求める心が成長のステップ的に描かれるものが、本作でももちろんそういった要素を受け継ぎつつも、「人間であること=周りと同じであること」の実感を得られるものとして変容を留めるもの(変わりたくないという抵抗)のように描かれているようにも感じました。少女が感じる内面的な痛みや苦しみ。それは成長がもたらすものなのか、それとも成長を踏みとどまりたい気持ちがもたらすものなのか。

そして、抑えきれず溢れ出てくる「自分」としてのアイデンティティを描きつつも、それを手に入れることを温かな希望に包まれたものとしてだけではなく、当然未来へと続く希望としても描きつつも、自分であることによるある種の「呪い」的にも描いている。何かを手にすれば何かを失う。アイデンティティを手にすれば、当然失うものもある。

自分は何者なのか。そういった普遍的な問いかけに対し、自分の中ではその答えがわかっているけれども認められない。自分は周りと同じ存在だ!周りと同じ存在でありたい!という「自分」に対する拒絶。でも記号的に捉えられるその他大勢=「他人」と同じ人間なんて存在しない。「自分」というものを受け入れ認めること。それは究極の孤独を手に入れることでもある。それこそ、眼前に広がりどこまでも無限に続く未来への旅立ちのように。

他作でもこういったテーマは内包されてるんだけど、ここに作品としての重点を置いた本作は新鮮に感じました。そして親友との関係性という旅立つ自分にとっての灯台的な存在を描いたのも良かった。

私的には同系列の『テルマ』が大好きなので、そちらに軍配ですが、本作も眠気を吹き飛ばしてくれるレベル(鑑賞前めちゃくちゃ眠かった…)には最後まで惹きつけられる良い作品でした。ただ、ホラーかどうかはこれまた微妙な気はします。でも、ジャケ画像に堂々と「カミング・オブ・エイジ〝ホラー〟」って書いてるのでホラータグつけときます。

あと、上にも書いた思春期女子が人狼へと変容する『ジンジャースナップス』は、知名度低いしB級ホラーではありますが、面白いので、これ系統好きな方には是非見てほしいオススメ作品です♫
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