またたび

楽園のまたたびのネタバレレビュー・内容・結末

楽園(2019年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

原作は読んでいないが、予告編を見ただけで綾野剛の事件のストーリーは、今市事件をヒントに書かれたものだとすぐに分かった。私の地元で起こって現在も最高裁に上告されている事件である。
仕事柄、この事件にはちょっと詳しいので絶対に観なければと思っていた。
事件としては、少女の遺体は発見されていて8年経過後に突然、容疑者が逮捕された。しかも別件で逮捕中にこの事件の自白が取られた。
逮捕された人物の生い立ちや仕事は、綾野剛が演じた役と同じ。
映画に出てくる少女の等身大の立看板は、実際の事件とそっくり。容疑者が逮捕されるまで私もあちこちで見かけた。
映画を観ていて、途中、何度も苦しくなった。
ジョーカーと描いている世界は同じ。社会的弱者が、社会や周囲の人間に追い込まれていく様を描いている。こちらはアメリカ的な追い込まれ方だが、楽園はいかにも日本的。日本の田舎の恐ろしい側面を見事に描いている。
私は親の出身地ではないので、育ったところは新興住宅地だったから周囲は同様のよそ者ばかりで、私は直接的には田舎の悪辣な部分に巻き込まれる事なく育ったが、この映画で描かれる田舎の嫌な部分はよくわかり、私も高校卒業後は東京に出た。田舎が大嫌いで戻るつもりなんかなかった。
しかし、10年ちょっと前に将来的な親の介護とかを考えて地元に戻り仕事をしていると、この映画にある大嫌いな田舎の社会の恐ろしさに出会うことが度々あり、何度もまた地元を出たいと思ったことを思い出し、この映画は私にとってとても苦しかった。
でも、映画で綾野剛のセリフで「どこも同じ。」というのがあるが、よくわかる。田舎の問題ではなく、人間の問題。もっと言えば人間が集まったときの問題だということ。すなわち、どこかに楽園があると探しても、そんな場所は東京とか外国とかにあるのではなく、自分で作り出していくしかないのだということだと思う。

アメリカでは頻繁に学校などでの銃乱射事件があり、日本でも通り魔的な無差別殺人がある現代の病を現しているように思う。
ジョーカーのレビューでも書いたが、社会で起こる出来事は、社会を構成する我々人間が、みんなうすーく関与しているのだと改めて感じさせられた。
瀬々敬久監督、脚本も書かれたようだが、現実社会を明確な意図をもって描き、観客の目の前に問題点をぐっと押し出してくる。真実を知りたいと思うのは人間として当たり前だが、真実がわかるはずと考えるのはもしかしたら人間の傲慢なのかもしれないと感じさせられた。
この映画は、事件の真相は曖昧なままで評価は別れるかもしれないが、探偵小説のような謎解きのような作りになっていないのは私はよかったと思う。結局、起こったことをそれぞれの立場で抱えていくしかないし、全ての人が同じ結論に辿り着かなくていいということを肯定する作品だと感じた。
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