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楽園のumisodachiのレビュー・感想・評価

楽園(2019年製作の映画)
3.0
吉田修一の短編集の2編を組み合わせて映画化。12年前にY字路で起きた少女失踪事件と、限界集落で発生した村八分に起因する事件を描く。

犯人と疑われた移民2世の青年、被害者少女の最後の目撃者となったかつての少女、村八分に合う男性という3人のキャラクターを中心に、田舎の閉塞感や、他人を追い込んでいく無邪気な悪意を描いていく。

(役名がピンとこなかったので、役の話であっても役者名で表記しています)

杉咲花や佐藤浩市の芝居は達者だし、心理描写も丁寧だし、よくまとまっていると思う。そうなんだけど……感情の逃げ場がないんだよなあ。実際にあった事件を元にした救いのないストーリーはまあいいとして、その裏にある不信や無関心といった人間の悪徳を炙り出しているのはわかる。でも、あんまり好きじゃないんだよな~、こういう作品。

『怒り』もそうだったんだけれど、暗いものを暗く描いたら、そりゃ暗いよ。となりません?『存在のない子供たち』や、『ゴールデン・リバー』なんかも暗いストーリーだと思うけれど、ずっと同じテンションで暗く進んでいくわけじゃない。笑いを入れろとは言わないが、緩急つけてほしいとは思う。

杉咲花につきまとう元同級生を演じる村上虹郎の役なんかは良いアクセントになり得ると思うのだが、やり方が強引すぎて引く。最初にあんなことされちゃったら、その後でいくら良い子な振る舞いをしたとしても仲良くはなれないなあ、私だったら。ずっと同じトーンで進んでいくから感情がついていかないんじゃないかと思う。杉咲花と村上虹郎のシーンだけ違う空気を纏っていたら、また印象が違ったのではないだろうか。これはキャストのせいというよりは、脚本や演出のせいなのかな。

柄本明が杉咲花に投げかけるセリフも、引く。あんなこと言われたらもう二度と顔も見たくないよねえ。ずーっと同じ暗いテンションが続いていて、要所要所に救いようがないセリフが混じってくるので、とにかく落ち込んでしまう。祭りのシーンに動きはあるものの、流れは変わらない。そのまま最後まで進んでくれればまだいいが、最後の最後で「まとめ」みたいなシーンがくるのも好きになれなかった。私には最後に見せる杉咲花の行動が不自然だとしか思えない。

あと、杉咲花たちの町と、限界集落との距離感が謎。映画を見る限りはけっこう近そうだったが、もっとずっと不便なところにないと限界集落とは言えなくない?「そんなにツラければ町に出てきて相談すれば?」という程度の距離にしか見えないので、限界集落パートの切実さが薄まってしまっている気がした。ただし、『復讐するは我にあり』みたいになっていた風呂のシーンは良かった。片岡礼子の芝居のおかげで、ギリギリのリアリティが保たれていた。

『蜜蜂と遠雷』と比べるのも変な話だが、やはり邦画の多くは説明しすぎだと思う。社会が持つ残酷性や、無関心や疑心暗鬼という罪のことなんて、事件を見ていれば痛いほどわかるよ。犯人が誰だったかなんてもはや問題ではないっていうのもわかるよ。だから、余分な説明はしないでほしい。ちゃんと観客を信じて。
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