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3.7
本作はあるドキュメンタリー作家の両親の記録。
信友直子監督は広島の呉市で生まれ育ち、18歳で映像の仕事に憧れて上京して以来、普段は両親とは離れて暮らしています。
その母親が87歳で認知症を発症、95歳の父は初めての家事を余儀なくされます。

その家事経験もない腰の曲がった父親が、仕事は辞めて家に戻るという娘の信友監督に、母親の面倒はオレがみるからおまえは自分の仕事をしろと言います。(この95歳にして初めて包丁を手にし、さらに鼻歌交じりに裁縫までマスターしてしまうお父さんがカッコイイ!)
独身のひとり娘・監督・撮影・語り=信友直子

本作のタイトルは母親が実際に新年の挨拶の後で信友監督に言った言葉だそうです。
高齢者や介護のドキュメンタリーなんて、つい暗く陰鬱な面ばかりを想像してしまいますが、本作は悲壮感や絶望感よりも、たくさんの優しさやユーモア、愛情に溢れています。
お母さんっ子だった信友監督は、母親が認知症になったことで、これまでで一番父親と話すようになり、父親のことを知ったそうです。
そして、これまでたいして仲が良いとも思っていなかった両親同士の絆を知りました。

自分が若い頃は介護なんて無関係だと思っていたのが、親が高齢になって初めて他人事ではないと気づきます。何事もわが身に降りかからないと実感はわかないものです。
私は信友監督と同世代ですが、両親ともに認知症どころか平均寿命に達することもなく既に他界しました。おかげで介護の心配をする前でしたが、これはこれでちょっと早すぎ。
一方的に育ててもらったまま、何の親孝行もできなかったことが悔やまれます。
そして気がつけば、親どころか自分自身が高齢者単身世帯の、そして認知症の予備軍。

2025年には日本の人口の三分の一近くが高齢者(65歳以上)になると言われ、そのうち5人に1人が認知症になる計算だそうです。
これからは高齢者施設が不足し、介護職員が不足し、高齢者のみの世帯、高齢者の単身世帯が急増します。単身世帯の高齢者たちもいずれは少なからず認知症になります。

気がつくと本作のその後を記録した続編が既に公開されており、地元では既に上映期間終了。しまった。
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