ぬーたん

ぼけますから、よろしくお願いします。のぬーたんのレビュー・感想・評価

4.0
このジャケのご夫婦、何とも良い表情してるねぇ!ドキュメンタリー映画だけど、この老夫婦の視線の先は一人娘の信友直子さん。監督でナレーションでカメラマン。年老いた自分の両親を撮って記録した映画。その期間は1200日だそう。広島県呉市に住む両親、東京でひとり暮らしの直子さん。映像の仕事をしている直子さんは東京から離れられず年老いた両親を想い苦悩するが、認知症の母親と暮らす父は、自分が世話するから大丈夫、お前は自分の仕事をせい、という。その父はこの撮影当時(5年前)で95歳!母は87歳。娘は54歳。直子さんは1961年生まれで私と同じ世代。私の母は84歳、義母は88歳。幸い、2人共ボケずに元気で暮らしているが、これは他人事ではない。それだけに観るのが辛かった。容易に想像がつくから…。これは私のすぐそこに来るかもしれない現実だ。私の周囲からも似たような話を聞くし、老々介護、老々+老介護、という年寄りだらけの時代がやって来た。医療が進歩し長生きになったのは良いが、ボケる人も当然増えて、核家族化した今の状況では、離れて暮らす家族も含めて、周囲の負担が多い。私自身も母たちも最期はピンコロを望んでいるがそう上手く死ねないもんね!
大正生まれで青春時代に戦争を経験した父は、ひとり娘に自分の叶えられなかった夢を託す。好きなことをやれ!と。東京大学を出た優秀な直子さんはその通りに天職を見つけ、昼夜厭わず働き、忙しさで独身を貫いた。そして45歳の時に乳がんになる。映画では語ってないが、その後はインドで事故にあったりと、なかなかに波乱万丈な人生を送って来たようだ。
その時の映像で母が笑顔で写っている。直子さんの手術前、私のオッパイをナンボでもやるのにね、と笑いながら‥。抗がん剤の副作用で抜けた髪の頭を、可愛いと撫でながら…。その陽気な優しい母がボケて怒鳴って変わって行くさま、辛いなあ。
でも驚くのは父親だ。95歳で背中も曲がっているのに、何と逞しく優しく強い父なのだろう!買い物に料理、洗濯ものを畳み、美味しい珈琲を淹れる。95歳で初めて包丁を持つ!何て素敵なイケメンだろうか。
何処にでも居そうな普通の家族。だからこそ、この家族は私であり、貴方でもある。今でなくて何年か何十年か先の自分で自分の親なのだ。そう考えると、もう胸はいっぱいになる。何が正解か、どう生きてどう死んでいくのが良いのか?というその前に、選べない寿命や病気や生き方。あらがえない現実の前に心の平穏をどう保って行くのか、それを考えても分からないけど、少しだけヒントを貰えた気もする。
ボケてもヨボヨボ歩いても、美味しくご飯を食べられる、それって幸せだし、最後までそうありたいなあと真っ先に思った。
随所に素晴らしい映像や話があり、何度も観たくなる。
この映画の後の現在のお2人については書かないことにする。観終わってから調べてみてね。
ドキュメンタリーは好きで色々と観て来たが、今までで一番好きかも。泣くわけでもないのに、こんなに胸が締め付けられて、こんなにこの家族を好きになるなんて、凄いなあ。両親の、そして直子さんの愛情がいっぱい、カメラの中に溢れている。
観る人は選ぶけど、50歳以上は是非観てね!
ぬーたん

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