そんなのは綺麗ごとだ。物事はもっと複雑だ。大人なら、あらゆる可能性を考慮しなくてはならない。
そうやって難しくしたものを、あらゆる情報を駆使して考えることが世の中と誠実に向き合うということなのだと、ずっと勘違いをしていた。スクリーンの中で抱き合う黒人と白人を見てそれに気がついた。
肌の色は異なっていても私たちは同じ人間だ。文化や生き方が違う人でも、どこかできっと分かり合えるはずなんだ。教養と礼節を綺麗なバッグに詰め込んで鑑賞に来た貴族と私たち大人の前で、そんなことを今更堂々と言ってのけるその勇気。
「勇気が人の心を動かす」
とても当たり前で忘れていたメッセージ。
「世の中は複雑なんだ」
階段の踊り場で語るトニーのセリフが、私と世の中の関係を簡単にした。