人種差別を題材にした映画だけど、そんな要素もありつつもドン・シャーリーという一人の人間の持つ人種差別/存在意義ゆえの孤独を描いていて、それに対するトニーのがさつだけど微かな温かさが彼の心を溶かす感じは良かったです。それも含めて、人の助け合いや心を通い合わせる温かみが素敵な映画だと感じました。
まず凄いなと思ったのは演技で、トニー役ヴィゴ・モーテンセンの自然体な雰囲気とドン・シャーリー役マハーシャラ・アリの高飛車から丸くなる自然さとピアノ演奏のリアルさが凄く良かったです!そんな彼ら二人のやり取りもがさつな人間と真面目な人間のぶつかり合いだけに留まらず、どこか緩い雰囲気もあって見てて楽しかったかな。
あと人種差別の映画の割には明るい映画でお笑いも随所に散りばめていたので、全体的に見やすい映画なのも特徴的かな。普通に笑える映画で重いテーマを扱っているんだけど、一人の人間のアイデンティティを模索する要素が強いおかげかヒューマンドラマ映画として面白かったです。それを感じた終盤のライブシーンは印象的かな。
ただ、そんな明るさが良い面でもあって悪い面だったと感じました。人種差別の出来事が全体的に軽かったです。
基本的に理不尽な目に合うことが多いし、それを感じさせる作品も数多くある気がします。例えば「ゲット・アウト」での間接的な陰鬱さ、「ビール・ストリートの恋人たち」の理不尽さ、レビューを上げてないけどソロモン・ノーサップの奴隷体験記を題材にした「それでも夜は明ける」の惨さなど…基本的には重いテーマで、それ相応の出来事があって初めて凄みを感じ取れます。
グリーンブックはそんな過去作品とはうって変わった作品で、人種差別として受けるシーンが全体的に軽い上にトニーによる助けであっさり乗り越えることが多かったです。それによって少し印象が薄かった気がします。
良い映画であることは間違いないけど、個人的にはアカデミー作品賞を取るほど凄まじい作品なのかな?と感じました。