風の旅人

グリーンブックの風の旅人のレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
3.5
なるほど、賛否両論も頷けるウェルメイドな「美談」だった。
そつのない脚本、そつのない演技、そつのない音楽。
すべてが平均点を上回り、老若男女誰が見ても感動できる完成度の高い作品だった。
逆に言えば、飛び抜けたものがなく、「時の洗礼」には耐えられないかもしれない。
伏線回収が上手く、脚本を学ぶにはもってこいのテクストではないかしら?
レイシストだったトニー(ヴィゴ・モーテンセン)が教養のあるシャーリー(マハーシャラ・アリ)との「旅」を通じて変わっていく様は感動的だった。
よく言われる「白人が黒人を救う物語(白人救世主譚)」という批判は、シャーリーとトニーの関係は相互的なものであり、批判を免れていると思った。
黒人でありながら富裕層に属するシャーリーには居場所がなく、イタリア移民のトニーもまた白人社会の中で差別されている。
そんな二人の間に芽生える友情は翡翠の石のように美しい。
人は「同じ」であることに安心し、「違う」ことに敏感に反応する。
意識的にしろ無意識的にしろ、差別意識から自由な人間はいない。
既成の価値観は「他なるもの」を抑圧し、排除することで成り立っている(キリスト教に対する異教、男性性に対する女性性、白人に対する黒人etc)。
しかし雪がすべてのものに平等に降り注ぐように、互いの違いを認め、尊重し合う道があるはずだ。
本作の描き方はいささか甘く、希望的かもしれないが、問題提起としては悪くない。
風の旅人

風の旅人