このレビューはネタバレを含みます
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粗野で乱暴者で黒人への偏見も持つトニー。とはいえイタリア系白人だし、人種差別の視点がいわゆる英国移民からの米国白人とは立場がちょっと違うのではと思い、また、出てくる東洋人との関係、職業や教養や立ち位置がそれぞれで、なかなか一筋縄ではいかないニューヨークの人種構造がこの映画の一つのポイントか。
シャーリーの才能を享受しながらシステム化された差別を当前のルールとして押しつける社会の残酷と欺瞞。シャーリーはどう行動し、どう振る舞えば最も効率的に差別と戦えるかを知っている。黒人社会からもひとり浮きながら敢えて差別の激しい南部へと向かう。根気よく続ける静かな抵抗、理解を促し承認を得ること…その場しのぎの短気を起こしても意味はない。けれども積年の鬱憤は当然たまっている。トニーとのやり取りで思わず感情を爆発させ吐露してしまう場面は胸を打つ。
ふたりの関係は時に父と子のようでもあり、それが逆転することもあり、それによってふたりがどう生きてきたのか、どういう人なのかが浮き彫りになってくる。一番笑ってしまったのは、車窓から捨てたゴミを拾いに戻らされている場面。シャーリーが父親でトニーが子供のように見えるエピソードは驚くくらい単純な内容なんだよね。一方、トニーに気を許し始めたシャーリーが感情を爆発させたり牢に迎えに来てもらう姿は、彼が抱えている問題が深くて、そもそもが高貴さのある人だけに痛ましくて見ていてつらい。
マハーシャラ・アリもヴィゴも素晴らしい演技でした。ピザの食べ方とか思いつきもしなかった。翡翠をくすねてお守りにするヴィゴ可愛すぎかー。体型も変えてトニーになりきっているけど、やっぱり美形だなあ。ドクター・シャーリーのピアノ演奏はライブで聴きたいくらいだったし、フライドチキンや手紙のエピソードも楽しい。シャーリーとトニー、ひたすら愛おしいふたりでした。
グリーンブックのことはこの映画によって初めて知りました。グリーンブックが作成された経緯や作成者のヴィクター・H・グリーンのことも映画化できそうでは?その当時、公的な交通機関での差別を避けるために車を買う中産階級のアフリカ系アメリカ人が増えたそうだけど、今度はガソリンスタンドや整備工場や宿泊施設で差別に遭ったそうで、ハァ ため息しか出ないわ。