天才黒人ピアニストのドクター・シャーリーが、より差別が根強いアメリカ南部でのコンサートツアーを計画し、それに当たって粗暴なイタリア系の男・トニーを、運転手兼ガードマンとして雇うことになる。その旅のなかでふたりが友情を深めてゆくロードムービー。
最近は『ゲットアウト』『ムーンライト』『ドリーム』と、人種的マイノリティとその差別の有り様を描いた作品が多く、そういうのがアメリカハリウッドの流行りなのかもしれない。
野暮で下世話な言い方にはなるが、「実話」「負の歴史」「バディムービー」と、賞レースに勝ち残りやすいトレンドで役をそろえてきた感じの題材ではある。
アメリカ南部における黒人差別ものではおなじみとなっているレストラン・トイレなどの人種隔離、夜の外出禁止、警察の対応、60年代のグリーンブックなるパンフレットの存在、しっかりと時代背景が描かれ、ひとつひとつが彼等の障壁となるのだが、特に辛いのは、同じ黒人たちからの好奇の視線が刺さること。育ちのいいドクター・シャーリーが同胞の現状を目の当たりにしたことで自分が恵まれていることを実感し、責任も根拠もないはずなのに自分だけが何か間違っているような後ろめたさに心を苛まれるのが、そのまま痛いほど伝わってきた。
「恵まれた出自の才能ある黒人と芸術を解する貧乏白人の友情」という題材とその扱いは、かなり評価の割れるところではあるけれど、映画なんてものは途方もないと思えるような絵空事を語ってこそで、創作の中でくらいは現実味のないように感じられるほどの綺麗事をみせてほしいものだ。人はより良くなれるはずだと理想を信じさせてほしい。今は思考がお花畑だと嘲笑の対象になるようなことが、やがて時が経てば笑い話になるような、そんな世界であってほしい。
『私はあなたのニグロではない』というドキュメンタリーで、『夜の大捜査線』の別れ際にする握手のことをボールドウィンは「キス」と表現していたが、本作では「ベロチュー」までいけたんじゃないか。愛いね(腐)