アンダーシャフト

グリーンブックのアンダーシャフトのレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
4.3
マイノリティへの差別を、人間同士の心の交流で溶かす映画。実話を元にした作品と知って、かなり衝撃を受けた。これが実話なら、もうファンタジーのレベル。それくらい当時の黒人差別は酷かったと聞いている。

人種差別が日常的だった60年代のニューヨーク。
粗暴、無学、無教養で、腕っぷしと屁理屈が取り柄のイタリア人トニーがありついた仕事は、孤高の天才黒人ピアニスト、ドクター▪シャーリーの運転手だった。二人は、当時のアメリカで特に人種差別の根強い南部でのツアーに出発し、8週間生活を共にすることになる…

どこかくたびれて冴えない中年オヤジのヴィゴ▪モーテンセンと、細身のスーツをピシッと着こなしたマハーシャラ▪アリ。外見も考え方も生活環境もほぼ共通点ゼロの二人が、互いにイラつき反目しながら、その距離を縮めていきます。

でもそれは、自分的には友情というより化学変化に近い感じ。真面目でプライドの高いドクターは、下品で粗野なトニーの言動を快く思わないながらも、いつしか彼を頼るようになる。彼の言うことにも理解を示すようになる。一方、元々黒人に偏見を持っていたトニーは、ドクターの演奏に触れたことで彼の才能の素晴らしさを感じ、その教養の高さと妥協しない生き方に尊敬にも似た思いを抱くようになり、いつしか黒人に対する偏見も薄らいでいく。
相手の全てを理解し信頼してる訳ではないけど、互いの心の幅や奥深さが変わっていく感じ…これも一つの友情の形か…こういうのを観ると、誰かがそばにいることって大切だなぁと、年甲斐もなく思えてしまいます。

印象深かったのは、ピアノを弾いているドクターの様子。多くの来賓の前で演奏している姿は、全然楽しそうでない。演奏前後は笑顔になるけど、演奏中はひたすら美しく弾くことにこだわる渋い顔。自ずと緊張感が伝わってくる。
でも、オレンジ▪バードで古ぼけたアップライトピアノを弾く彼は、実に楽しそう。そして、店を出た後の満足げな笑顔。これも、トニーと一緒だったことで生まれた化学変化だったのかもしれません。(でも、弾き始めの前にピアノの上のロックグラスを片付けるのは、ドクターの矜持…こういう小技がいいですね)

ややもすれば重苦しくなりがちなテーマを、ユーモアを交えた優しいタッチで展開できてるのは、元々コメディーが得意な監督らしさなのでしょうか。

勇気を持って自分の意識を変えようとしても、独りではなかなか大変。だからといって、知らない人との出会いは、どうしても不安や緊張や先入観が先に立つ。
でも、ちょっとだけ相手に関心を持ったり、相手の見かけじゃないところに触れるきっかけがあれば、自然と偏見や差別の垣根は低くなっていく…そんな明るい可能性が、この映画の中で説教臭くなく表現されているところは秀逸です。

この作品は、良し悪しよりも、観て感じてほしい。
心の化学変化に温かく包まれるような、新たな出逢いを怖がらずに楽しめそうな、誰かに少しだけ優しくなれそうな、そんなハートウォーミングストーリーです。

【余談】
あんな素敵な奥さんと一緒になれたんだから、トニーはきっと根っからいい奴なんだ…
いや、トニーの口八丁手八丁に引っ掛かって…良くできた女性ほどダメ男とくっつくとか聞くし…やっぱし人生って分からない。