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グリーンブックのknjmytnのレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
4.8
すごい面白かった。

会話劇がまず最高。
ドクの上品でエレガントな言葉使いが本当に素敵。ただ丁寧&ハイコンテクストすぎて、平原が飛行機になるし、ギリシャ神話のオルフェウスは孤児になってしまう。
一方でそんな知的なドクはうまく相手をケムにまく口の巧さを意味する“bull shit“とただの嘘つきの“liar“との違いはわからない。
この2人のすれ違いが最高。

そんな口の巧さをあだ名につけられるほどのトニーが、ドクが身を置いている環境の複雑さが生む孤独を叫んだときに、なにも言わなかったのが良かった。好きなシーン。

ドクの屈折?した環境と人柄は、ラジオで流れるほどの知名度を誇る黒人のポップスシンガーを誰1人知らなかったりする。
クラシックが好きすぎて、ポップス一切知らないだけかもしれないけど。

だからといって、自らの黒人というアイデンティティを完全に否定しているわけでもない。

毎晩飲む一本のカティサーク。
なんでアメリカでスコッチウイスキーなんだろうって思ってたけど、バーボンの背後にある、トウモロコシ農場で奴隷として働かされていた黒人が頭によぎってしまうのかな。
自らの複雑な境遇を忘れるためにあんな量を毎晩飲んでるのに、そんな背景がチラついてちゃ酔えないもんな…
クリスマスパーティーにはたぶんヴーヴクリコ(フランスのシャンパン)持参してた気がするから、ただ欧州の酒が好きなだけかもしれないけど。

差別の歴史があることで、ドク個人のただの好み、クラシックとスコッチウイスキーが最高ってことが
深読み可能になり悲観的に捉えることができて、大きな物語に組み込んでしまう危険性みたいなものを感じた。それは差別の歴史を軽視するようなことではなく。

それをすっ飛ばしてくれるのがトニーのキャラで、相手のことをちゃんと見て、瞬間を嘘なく生きている。
最後に2人の間に生まれる温かい友情がやっぱり良かったな。
一緒にケンタッキーの骨を窓から投げ飛ばすシーンは最高でしょ。

単純に大きな社会的な話に組み込んで差別の歴史を訴えるわけでもなく、2人だけの小さな友情物語に終始してるわけでもない、かなりバランスのとれたすごい映画だなって思った。
最後はみんなトニーの奥さんの手のひらの上の出来事だってこともわかるし。やっぱり女性はすごい。

映画はまずエンタメとして楽しめる作品の方が好きだな。
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