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グリーンブックのkekqのレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
4.0
1962年 アメリカ。大金持ちの黒人ピアニストと、ドライバーとして雇われたイタリア系白人のロードムービー。とても純粋な映画。

裕福な黒人×貧しい白人というねじれた構図が、繰り返し描かれてきたアメリカの人種差別というテーマを新しい角度で切り取ってくれる。

ドン・シャーリーは自らのアイデンティティに苦悩する。芸術家として富と名誉をほしいままにし、うわべの尊敬を一身に受ける一方、舞台を降りると1人の黒人として理不尽な扱いを受ける。己の繊細な知性と感性が邪魔をし、家族もバンドメンバーにも心を許さず孤独に浸る。
トニー・リップはアイデンティティに悩まない。貧しく不遇な扱いを受けても、優しく包容力のある妻を愛し(奥さんがホント素晴らしい)、全ての家族を愛し、その一員であることを誇りに思っている。自らの意思でファミリーネームを省略することは断固拒否する一方で、見知らぬ他人に名前を読み間違えられても一切意に介さない。

ドンはトニーの生き様に、トニーはドンの知性に惹かれあい、互いの苦しみを共有し、物語の後半ではいくつもの優しい奇跡が世界を包み込んでゆく。
手紙、ショパン、クリスマス、そして車、全ての伏線は丁寧に育てられ、美しく実を結び、完璧なタイミングで収穫される。
誰の心にも届く優しい結末は、いわば既視感たっぷりのお定まりのオチではあるが、この時代にこれだけの説得力を持って王道を貫ける土台は強い。

出会うこと、旅をすること、そして悩むことの大切さを伝えてくれる物語。こんな素直な映画がオスカーを取った事実が嬉しい。
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