LudovicoMed

PTUのLudovicoMedのレビュー・感想・評価

PTU(2003年製作の映画)
3.9
『夜は短し歩けよラムシュー』

バイオレンス映画ファンから一目置かれるジョニートー監督が一夜限りのミニマムな物語を群像劇で魅せた本作、なんと"香港のタランティーノ"なんて誇大宣伝され封切られたらしいが、どちらかというとコーエン兄弟系のどん詰まり状況下におけるユルユルなケアレスミスを魅力的に描いた作品だろう。

香港の暗く長いある一夜、荒くれドジっ子刑事サァ(ラムシュー)が食堂へ入ると、偶然お尋ねマフィアの息子マー+チンピラ一派と遭遇。下っ端チンピラは案の定サァにちょっかいを出し店の外で一悶着、マーが一人になった隙に、別の刺客に殺されてしまう。
ジョニートー監督はバイオレンスとコメディの行間を歪な感覚で捉え、強面人物の滑稽な描写と共に熱いドラマを編み出す作風が特徴だ。故にケレン味比率が異常に高くキッズ漫画も避けるようなトンデモ展開が盛られたりするのだが、本作は特に異常です。なんせ、マーがナイフで刺された瞬間、彼はエクスタシー達し猛ダッシュするのだ。挙句ラムシューがチンピラを追うと、なんとバナナの皮ですってんころりん、気を失い拳銃をパクられる。
マーの死と、消えた拳銃を中心に群像劇を物語るという珍作ノワールなのだが、なんせ今回はラムシューの魅力一つでクセの強い主軸を成立させている。
マ・ドンソク系愛され太っちょ役者な彼の健気さが段々可愛らしく思え、気づけば何をやってもマイナス方角ばかりなラムシューに萌え、応援したくなるはずだ。

さて、かなり破綻気味なストーリーもラムシューのおかげで爆笑とワクワクを掻っさらう本作の魅力は、ジョニートー独自の"夜の世界"描写も重要なファクターとなる。 不自然なまでにガラーンとした開放感に、ジョニートー的荒野のメタファーとして西部劇の世界を、ノワールで再構築したのだろう。
興味深いのは、ラムシュー含む登場人物ほぼ全員が利己的な行動で動き、警察官たるも『全員悪人』さながらな群像劇なため、最後の最後まで、誰が微笑むか分からないのだ。

そしてこの心理描写にこそ、ジョニートーお得意のケレン味の中のリアリズムを生み出す。
例えば、勇敢そうに正義を貫く人物が未曾有の事態に巻き込まれると、足がすくんで動けなくなってしまう。
こういう心理描写にプロフェッショナルな世界の怖さをしっかりと紡ぎ出します。

更に本作の面白い所は、皆同じ事件を追ってるように見えて、スタート地点が異なる手がかりから始まるため、目と鼻の先にいるもなかなか交わらない。ただ、大団円が待つ終盤の三つ巴がどうも弱い。後に撮る『ドラッグウォー毒戦』が如何に洗練された三つ巴であるかが分かる様に、本作は盛り上がりに欠けるのだが、あまりにトリッキーな展開で集約していくジョニートー節は最高に楽しいです。

今では、世界中から愛されMCUからもスカウトされるマ・ドンソクに比べラムシューの認知度は残念ながらいまひとつ。
しかし、ラムシューの魅力が最大限光る本作をマ・ドンソクファンも見てやってくれ。
きっとバナナの皮なんかに転ける彼に母性本能くすぐられる、、はずだ、。
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